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創作短編『それぞれのゆく年くる年』
初詣E
仁科はたじろぎ、

「何か悪かったのか? 今叶えたい事はそれ以外ないだろうが」

「え〜〜〜!」

るみはものすごく残念そうに肩を落とす。

「こんなのただの風邪ですからその内治りますよ。初詣に来たのに先輩のお願いがそんな事なんてもったいなさ過ぎます…」

「悪い…って、謝るのもおかしいな。どうしてお前が悲しむんだ。俺の願い事なんだからいいじゃないか」

「そうですけど…でも。ありがたいけど許せないんです」

と、るみはむくれてしまう。

仁科は苦笑いした。

「複雑だな」

「今日が大切な日だからです」

「まぁいいじゃないか。金なんていくらでもあるんだから、また賽銭したらいいだろう。もう1回やるか?」

と、こちらにも金を差し出して来る。

るみはガクッとし、

「先輩ちっとも分かってないですね…。お賽銭はそんなに何度もやるものじゃないですし、そもそも願い事を人に話すのはタブーですよ?」

ふくれっ面(マスクがふくらんでいた)のるみの肩を仁科はそっと抱いて、

「なるほど、そういうものなんだな。分かったから機嫌を直してくれないか? そのふくれっ面も可愛いのだが、それだと少し困る」

るみはポーッと赤面した。

「さてと、何か食いに行くか。食欲あるか? 緑木」

「少しなら。あっちでおしるこを振る舞ってましたから行ってみませんか?」

とるみが指すと、仁科はギクリとした。

「いや、俺は甘いものは…」

「食べたいです、おしるこ…」

「う゛…」

るみは仁科の服の裾をしっかと掴んでいた。

「わ、分かった。行こう」

るみはパァッと瞳を輝かせると、率先して仁科の手を引っ張って行く。

「先輩にお願いしたら、私の望みはどんどん叶いますね」

「お前の願いは強いからな。敵わん」

「ふふっ。――うんとお願いしたらこの風邪も治って、冬休みの間にもう一度先輩とまたどこかへお出かけ出来るでしょうか…」

「お前の願いを叶える俺が神頼みしたんだ。当然叶うだろう」

「そうですね」

るみは陽射しを受けてまぶしそうに目を細めつつも、幸せそうに――本当に幸せそうに笑顔を咲かせた。



『元旦』編(2)…【完】



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あきゅろす。
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