創作短編『それぞれのゆく年くる年』
初詣B
「お待たせしました、先輩!」
るみは、先に来ていた仁科の元へ駆け寄った。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」
ペコリとお辞儀し、ニコニコと仁科を見上げる。
ただ、感情を表しているのは目元だけで、その下半分は大きなマスクに覆われていた。
「何かアレみたいだな……口裂け女」
仁科のしれっとした一言にるみはショックを受ける。
うつ向いてマスクを両手で隠すようにしながら、
「ほんとは着けたくなかったんですけど…先輩に移したらいけませんから仕方なく……絶対何か言われそうだなって予感してました…」
ポンポン、と仁科の手がるみの髪を撫でるように触れて来る。
「まぁいいさ、俺は知ってるからな。その下の素顔が可愛いって事を」
るみがうつ向いたままボッと赤くなる。
「せっ、せんぱぃ…」
「さ、行くか」
「ズルいですよ、先輩…」
「ん? どうした、行かないのか」
「行きますっ」
仕返しとばかりにるみは、ギュッと締めるようにちからを込めて仁科の手を握った。
―――――――――――
神社の境内は参拝客で賑わっていた。
空気は冷たいものの風はなく、陽射しもあり穏やかな天気だった。
鳥居をくぐって境内に入ると、本殿へ向かう前に手水舎に立ち寄り手と口を清める。
風邪を引いている事もありマスクを外すのをためらって手を洗うだけで済まそうとしていたるみだが、「清めた方が早く治るんじゃないか」と仁科が言うのでそうする事にした。
自分の左手に杓を受けて水を汲もうとしていると、横から仁科が手の平に溜めた水を差し出して来る。
るみはギョッとして彼を見上げた。
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