創作短編『それぞれのゆく年くる年』
初詣A
「……会いたいに決まってるだろう」
しばらくして返って来た仁科の返事に、るみは嬉しくて泣きそうになった。
風邪を引いているのをいい事に、グスッと鼻をすする。
「そ、そうですか…。それならいいんです」
「そうだよな、お前も退屈だよな。…悪いな、お前が寝込んだのは俺のせいかも知れない」
仁科の言葉は意外だった。
るみはキョトンとする。
「どうしてですか?」
「クリスマスの日寒かったのに、俺が外に連れ出したからな」
「そんなっ、そんなっ…!」
るみはワタワタとし、携帯電話を持っていない方の手でボフボフと布団を叩いた。
「そんなの先輩のせいなんかじゃないですっ。謝らないで下さい。私は元々普段から体調崩しやすいし、今に始まった事じゃないですから。いちいち気にしてたら、私どこへも行けません」
伝えたくてやや早口で一気にまくし立てると、受話口の向こうでふっと笑う息遣いが聞こえた。
「それもそうだな。なら、明日は出かけるとしよう。待ち合わせは9時でいいか?」
「はいっ」
「分かった。それじゃあ、切るぞ――」
「あっ、待って下さいっ」
「何だ?」
「年越しの時、また電話してもいいですか?」
数瞬の沈黙の後、
「明日に備えて早く寝ろ」
返って来た言葉はいつもの彼らしいあっさりとしたものだったが、伝わって来るぬくもりが確かにあった。
ささくれていた心が嘘のように、今は穏やかであたたかい。
「分かりました。おやすみなさい、先輩」
るみは笑顔で通話を切った。
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