創作短編『それぞれのゆく年くる年』 初日の出B 稲垣はジャンパーを羽織って適当に身仕度すると、律子と並んで早朝の町へ繰り出した。 「っおわー! 寒いなぁ〜」 防寒して来たつもりでも、この時季の明け方はやはり寒い。 しかし風は無く、目の覚めるような冷たい空気が凛と澄んでいた。 が、稲垣は足元の防寒を怠ってしまった――サンダルを突っかけて来てしまったのだ。 使い勝手が良いので年中玄関に置きっ放しにしているのだが、この時季の外出には向かない代物だった。 サンダルは通気性がよく、足の指がかじかんで痛くなって来る。 寝癖も気になった。 「しっかしお前…そんな格好で寒ないんかいな?」 見れば律子は、学校指定のセーラー服の上にジャンパーを羽織っているだけだった。 何も冬休みにわざわざ制服姿でいる事もないだろうに…。 律子は颯爽と歩きながら稲垣に向かってニコッと笑い、 「平気だよ。この格好が落ち着くんだ」 「さようか。まぁお前、スカートの丈長いしな…」 律子は昔懐かしいスケ番風の出で立ちをしていた。 本来なら校則に引っかかる所なのだが、何度指導しても聞かないので稲垣はもうあきらめている。 稲垣はふっと思う。 「何や、いつもの友達はどないしたんや? 俺やのうて友達と日の出見た方が楽しいんとちゃうんか?」 律子は普段決まった女友達のグループとつるんでいる事が多く、別行動とは珍しかった。 「ダチだからって四六時中一緒にいるって訳じゃないしな」 「まぁ…そらそうやわな」 律子は活き活きと空を見上げ、 「だんだん白んで来たな」 稲垣は腕時計を確認し、 「おぅ。もうじき6時半やさかい。せやけど、どこまで行くんや?」 「うんっ。いい場所があるんだ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |