創作短編『それぞれのゆく年くる年』
年越しの夜にC
風本 武は走っていた。
と言ってもほんの駆け足程度だが、それでも急いでいた。
吐く息は白く、夜の冷たい空気を吸い込む度に鼻の奥がツンと痛かった。
赤信号で足止めを食ったり、おしゃべりに夢中になって周りが見えない若い女の子のグループが道を塞いだりして、武は内心イライラとする。
(ったく、こっちは急いでんのに。早く帰らねぇと…!)
途中コンビニに立ち寄り、適当に目についたシュークリームを買った。
100円で買える安価の徳用シュー。
休みを返上してバイトに出る事になった為、デートの約束を水に流してしまった…そのお詫びとして。
「食えりゃ何でもいいんだからな、アイツは」
多分これで機嫌を直すだろう。
武はシューの入った袋を下げ、家に向かってまた走り出した――。
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