創作短編『それぞれのゆく年くる年』
年越しの夜にA
「仕方ないわね、この時季だから特に。今日は誰かの代わりで出てるみたいだし、シフトの変動とか色々あるのよ」
ひとしきり食べて満足したななはテーブルに顔を乗せ、ぷーっとスネている。
「もぉ…お正月くらいはみーんな仕事しなきゃいーんだよ」
「あら、それだとコンビニも飲食店も全部やってないのよ?」
清美があきれて言うと、ななは「むぅ」と唸り、
「んむ…それは困る」
2人のやり取りを見守りながら気分よく晩酌を楽しんでいた武の父が会話に加わり、
「でもなぁ、昔は三が日と言えば店はどこも閉まっていたもんだ。今の世の中は大変になったなぁ」
「ほんとー? おとーさん」
と、なながテーブルに乗せた顔を少しずらせて父の方を向く。
「そうだよ。だから昔は年の瀬になると、しばらく分の食材をどっさり買い込んだもんさ」
「ふーん。オイルショック?」
「ふ、古…ま、まぁ似たようなものかな」
「はぁーぁ…」
ななはテーブルに頬をつけて頭を預けると、目を閉じてため息をついた。
「でもさ、タケシって絶対家庭を顧みないよーな男になりそうだよね。アタシの将来大丈夫かな…」
傍から見ると可愛い悩みだが、どうやら本気で心配しているらしい。
清美には彼女がいじらしく映るのだった。
「伝わりづらいかも知れないけど、あの子はあなたの事すごく本気よ。あの子も言葉足らずな所があるし、態度がああだから誤解されるかも知れないけれど。信じてあげて」
「そう…なのかな」
「傍から見てると分かりやすいからね。それに、武は昔から腹の底で思っていても言いたい事言えないような子だったけど、あなたには遠慮なく何でも言えるみたいじゃないの。仲良い証拠でしょ?」
「そうそう、武の奴は父さんに似て寡黙なとこあったんだよなぁ〜」
と父が頷きながらぽつりと言ったが、2人からは相手にされなかった。
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