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創作短編『それぞれのゆく年くる年』
年越しの夜に@
「タケシが帰って来ない…」

玄関からそっと顔を出して外の様子を窺った後、鳴海(なるみ)なな はガッカリした面持ちで居間に戻った。

モゾモゾとこたつに潜り込み、

「おーみそかだってのにバイト行くなんてさ。家に居るのが嫌だとしか思えないよ。もしかして清美(きよみ)さん、タケシに何かした?」

と、タケシ――風本 武(かざもと たけし)の姉である、風本 清美を仰ぎ見る。

「思い当たる節があるとすれば、あなたの方でしょうね…」

清美はあきれながらそう返すと、さっきキッチンから持って来た食器を卓上に並べて、

「武はいつ帰って来れるか分からないからね。私達だけで先に食べましょう」

と、卓上の真ん中に置かれた土鍋の蓋を開ける。

ほかほかと暖かい湯気が立ち昇り、いい具合に煮えた食材の出汁と甘口醤油の風味が香る――今夜はすき焼きだった。

食事が始まるとななは元気よくガツガツと食べるが、時折外で物音がするとピクリと反応して箸を止めるのだった。

しかし全く関係のない音だと分かると、また勢いよく食べ始める。

――彼氏である武は仕事だが、ななは武の家で彼の姉と父と一緒に大晦日の夜を過ごしていた。

武の姉と父は会社員なのでまとまった正月休みがあったが、武はサービス業に就いている為むしろこの手の時季は忙しかった。

ななもそれは分かっているのだが、やはり面白くない気持ちなのだった。

「タケシの奴っ、アタシと仕事とどっちが大事なんだよ…」

ふくれるななをはた目に、清美はやわらかい微笑みを浮かべている。

弟の立場も理解出来るし、その彼女の寂しい思いもよく分かった。



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