創作小説 『陽だまりヶ丘のひまわり』 10 「龍ちゃん?」 眠り込んでいるのならそっとしておくつもりで、話しかけてみる。 「…まだ居たのか」 「あのね、そのシャツとズボンお洗濯して、破れ目を縫ってキレイにしてあげる。だから着替えてそれを渡してくれない?」 龍寺はごろりと背を向けた。 「いいよ。要らん事すんな」 「だって…私が気になるの」 「替えがねぇからこれ着てんだろが」 「他の皆さんはもう少しまともな格好してるわ。どうして龍ちゃんだけいつもそんな格好してるの?」 「うるせぇな、悪いかよ。あいつらはあれでも一応格好は気にしているようだが、俺はそんなのどうだっていいんだ。何も着なくたっていいぐらいだ。風呂もずっと入ってねぇしな、その辺の川で水浴びるだけさ。分かったか、俺は不潔だからもう近寄って来んな」 「まぁ…」 沙雪は絶句し、龍寺もそれきり黙り込んでしまった。 (こんな人本当に居るものなのね…テレビではよく聞くけれど) ――どのくらい時が過ぎただろうか。 ぽかぽか暖かい陽気と、気持ちがスッとなるような爽やかな風に吹かれながら、ぼぅっと龍寺の背中を見つめていた。 そうしていると、無性に彼に触れてみたくなって来るのだった。 眠っているのなら…今なら、少しくらい……。 沙雪は、龍寺に自分の影が被らないようにそっと遠回りすると、彼の頭から数歩距離を取ってしゃがんだ。 龍寺は目を閉じて静かな寝息をたてている。 ふいに、きゅんと切ない感覚が胸をよぎる。 そっと手を伸ばして…そのまま固まってしまう。 沙雪はゆっくりと立ち上がると、忍び足でその場を去って行った…。 [*前へ] [戻る] |