創作小説 『陽だまりヶ丘のひまわり』
6
「おい、あれ違うんか?」
「えっ!」
見ると、青々とした葉がいっぱいに茂った桜の木の葉陰に、ポツンと2つ白い箱が置かれていた。
「あ! あれそうよ! よかった、見つかったわ」
ホッと安堵の息をつく。
自転車はゆるゆるとぎこちない歩みで木陰に近づいて行く。
「そう! 私ここでひと休みしたの。もうひと踏ん張りね、と思ったらまた元気が湧いて来て、張り切って歩き出したのよ」
「お前1人でな」
「ねぇ龍ちゃん、もうちょっと近づいてくれない?」
よろり…と少し進むと、ブレーキをきしませて止まる。
「えいっ。きゃっ、遠退いちゃった!」
「つぅか、降りて取って来いよ! 無精すんな」
「はぁい…」
名残惜しそうに龍寺のシャツを掴んでいた手を離すと、ストンと降り立ち、バスケットのひとつをよっこいしょと持ち上げた。
が、さっき龍寺にしがみついていた時に緊張し過ぎて手の平に汗をかいていたからか、沙雪の手からつるりと落ちて、ドスンと横倒しになってしまった。
「…まぁ!」
「何やってる、貸せ!」
龍寺がイライラとして自転車から降り立ち、ストッパーをかける。
黙ってもうひとつの方のバスケットを拾い上げると、自転車の前籠へ乗せた。
ガッシーン!
ヨレヨレの前籠は外れて落下し、バスケットは投げ出されて横倒しになった。
「…」
さすがに龍寺はバツが悪そうだった。
「…悪い」
「ううん、いいの! きっと中身は何とか食べられるから!」
明るいトーンで言って、ニコニコしながら自分が落とした方のバスケットを開ける。
「…私、帰るわ」
ショボンとして背を丸めた沙雪を通り越して、その向こうに転がっている自分が落とした方のバスケットを乱暴に開くと、龍寺はその場にしゃがんでタコさんウインナーの刺さったおにぎりを食べ始めた。
「え…龍ちゃん?」
沙雪は立ち上がると、胸元に両手を埋め、不安そうに彼の様子を見守る。
龍寺は振り向かないまま、肩越しに指でOKサインを出した。
それを見た沙雪の顔がみるみる笑顔になった。
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