創作小説 『陽だまりヶ丘のひまわり』
3
「私、自分の事情けないって今日改めて感じたのよ。1人じゃ何も出来なくって…だから社会勉強の為に働きに出たいの!」
「その社会勉強とやらの為に嫁に行き遅れたらどうするんじゃ!」
「まだ21よ!」
「もう21じゃ! あっと言う間に25を過ぎるぞ。卒業したらすぐに身分の確かな男と結婚! 三十路前に子供を生む。ワシの言う事をおとなしく聞いておれば良いわ!!」
――ふいに沙雪の脳裏に、父の敷いたレールに沿って歩む自分の未来が流れた。
(恋もしないまま誰かの妻になって、母親になるの?)
あっけなく終わる人生。
親への恩はあっても、これだけは譲れなかった。
「私、まだ恋もした事ないのよ! 人を愛する事も知らない女をこの方にもらってもらおうだなんて、却って失礼だわ!」
と、机の上の写真を示す。
「何だと、恋…?」
千之助が急に押し黙った。
何やら考え込んでしまう。
ここぞとばかりに沙雪は畳みかけた。
「このお話、破棄させていただきます!」
去ろうとすると、千之助が何やら呟いた。
「沙雪、ワシはの…」
「…何ですか?」
引き戸に手をかけたまま、怖々と返す。
「母さんとは見合い結婚だったんだ。恋心なんぞ、一緒になってからやっと湧いて来るものだぞ」
今度は沙雪が言葉をなくす。
(それは、そういう事だってそりゃあるかも知れないわね…)
隙を突いて、千之助が沙雪を再び座らせようとして来る。
「だからじゃ! おとなしくヒチサンの好青年と一緒になってしまえ! ヒチサンに悪い奴はおらんのだから!!」
「嫌ぁーっ!」
袖口を引っ張られて、激しく抵抗する。
それからもしばらく不毛なやり取りは続いた…。
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