創作小説 『陽だまりヶ丘のひまわり』 2 「お見合い? 私が…??」 千之助の書斎で、沙雪は素っ頓狂な声を上げていた。 「うむ」 千之助はいそいそと、用意してあった見合い相手の写真を机に広げる。 髪をきっちりと七三に分けてヘアワックスでテカテカに固めた、マネキンのような青年が写っている。 乱れも隙もない容姿だ。 「浦和 義文くん、27歳じゃ。証券会社勤めのなかなか立派な方ではないか、うん?」 「お父さん、私――」 「●●経済学部卒で、年収は――」 上機嫌で次々にプロフィールを述べる父に、立ち入る隙がなかった。 「何よりやはりの、男はヒチサンでないといかんわ、うん」 「シチサン…でしょ?」 「そうじゃ、ヒチサンじゃ!」 「もういいわ…」 沙雪は首を振ると、 「私、大学卒業したら働きに出るつもりよ」 父が目の色を変えた。 「いや! お前は外に出て行かなくても良いのだ! 婿をもらってずっとここに暮らせばいい。な?」 「お花屋さんに勤めてみたいの」 「花屋なんぞ水商売ではないか! お手てが荒れてしまう! 大事に育てて来た娘をそんなとこへやれるか!!」 何か違うような気がする。 沙雪はうつ向いてため息をついた。 「過保護もいい加減にして、お父さん。お願いだから、自分の進路は自分で決めさせて欲しいの」 パン! 見合い写真の冊子を父が机に叩きつけるような勢いで閉じた。 「世間知らずがよくそんな好き放題を言えたものじゃな! せっかくお膳立てしてやっておるというのに。これ以上何を望む!」 [*前へ][次へ#] [戻る] |