創作小説 『陽だまりヶ丘のひまわり』 1 「まぁ、どこへ行ってたの! 連絡も寄越さないで、もう!」 「ごめんなさい…」 沙雪は玄関に立たされたまま、母・真由子にこっぴどく叱られていた。 「本当に、もう…。お父さんだって気に病んでらしたのよ?」 「それは、ごめんなさい…」 「お母さーん、後にしなよ。お姉ちゃん夕ご飯まだでしょ?」 その時ちょうど、ふらりと妹の小雪がやって来た。 真由子はひと思案して沙雪を睨んでから、 「…そうね。なら、お上がりなさい。夕ご飯を温め直して来ます」 着物の裾をひらりとさせて、母は奥へ小走りして行った。 すかさず小雪が沙雪に寄って来る。 「で・も! お姉ちゃんもついに♪」 「あら、何が?」 「とぼけなさんなって!」 肘で沙雪の脇を突ついて来る。 風呂を浴びたのか、小雪は湯上がりの匂いをさせていた。 「いい事して来たんでしょうが♪」 「痛いわよ、もう…」 「甘い甘〜い彼との時間に酔って、腰も抜け切っちゃってるのね。やるじゃんかー!」 グヒヒヒヒ…と忍んで笑いつつ、小雪は奥の自室へと引っ込んで行った。 「相変わらずよく分からない子ね…」 何故そんな発想になるのか、沙雪には理解出来なかった。 (いい事だなんて飛んでもない! 今日は厄日だったわよ。でも…) 龍寺の事が浮かぶ。 「会えるといいのに、また」 小さく呟く。 「帰ったか」 ふいに父の声がして、沙雪はビクンと震えた。 「門限を破ってごめんなさい。お説教は後で受ける覚悟です」 「いや、その事はもういい。それより、晩飯が済んだらワシの書斎へ来てくれんか。ひとつ大事な話があっての」 「はい。分かりました」 「ふむ」 ひとつ頷くと、父・明俚 千之助(あかり せんのすけ)は顎髭をさすりながら奥へと引っ込んで行った。 [次へ#] [戻る] |