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創作小説 『陽だまりヶ丘のひまわり』

「っ…!」

沙雪はとっさに男の人のシャツにしがみついて、背後に隠れてしまった。

と、その掴んだシャツがふいに前へ引っ張られ、沙雪はシャツの主の背中にトンッとぶつかってしまう。

「何してる?」

「あっ、いえ…ごめんなさい」

若者達の間をすり抜け、2人はズンズン奥へと進んで行った。

やがてトイレマークのついた一角に辿り着いて、沙雪はパァッと明るい表情になった。

「サッサと入んな」

「はいっ! どうもありがとう!!」

――数分後、沙雪は足取り軽く出て来た。

「はーっ。スッキリしたわ♪」

「じゃ行くか」

「はい?」

沙雪はハンカチを手にキョトンとした。

「用は済んだんだろ? さっきのとこまでまた乗してってやるから」

面倒くさそうに言われて――沙雪は申し訳なさそうにうつ向き、チラチラと上目遣いに彼を見やった。

「実は私、迷子になっちゃったんです。さっきの所で降ろされても、どうやってお家に帰ったらいいのか…」

モゴモゴと呟いていると、相手が屈み込んでギラリと血走った目で睨んで来た。

「何だと? 聞こえねぇな」

「あっ、いえ、いいんです! 平気です、1人で帰れますから!」

沙雪は小動物のような瞳で相手の視線を受け止め、これ以上怒らせまいと頑張った。

「失礼を承知ですが、龍寺 (りゅうじ)さん!」

とそこへ、ふいに横からさっきの若者達の1人が割って入って来た。

「夜分遅くに女のひとり歩きは、いくら何でも危険です」

…意外と言葉遣いはとてもまともだった。

龍寺と呼ばれた男は、人目も気にせずあからさまな舌打ちをした。

いくら沙雪だって、全ての責任が自分にあるんだという事は深く理解出来た。

胸元に手を添えて、2人の合間に入ろうとする。

「いいんですの、あの、私1人でも――」

「しゃあねぇな」

龍寺はダルそうに嘆息と共に吐き捨てると、沙雪に背を向けて歩き出した。

「送ってってやるから車に乗れよ」

大股に歩いて行ってしまうその背中を、沙雪はつまずきそうになりながらもついて行った…。



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あきゅろす。
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