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小説
K 後日談



あれから起こったことをあれこれと思い返してみよう…






入院という思いもよらなかった事態は1週間ほどですんだのは何よりだった。倒れてるのを見た時は本当に心臓が止まるってあんだなーって思うほどびっくりした。肺炎が進行してて酸素が上手く身体の中に取り入れられなかったのと熱で朦朧として目眩が起こったらしい

治療の薬もよく効いて心配はしたけど無事退院した。だからあれほど病院行きなさいって言ったのに、言うこと聞かないんだからって怒った

まぁこんな事言えるのも元気になったからなんで良かったとしよう。自宅に帰って来ても静養を続け学校の方でもこれを機にかねてより打診されてた役職の副校長となった

本人としては退職するまで現役で教壇に立っていたかったようだけどこれも良い機会だからとの言葉に背中を押されたようだ

そして俺は今までの出来事を話した

卒業アルバム、銀八さんの遺品に写真、そして出会った人々、銀八さんと俺の関係…

特に俺にお祖母さんが生きていてくれていたことに驚き喜んでくれた。肉親とは縁がないと思っていたのに何度も会えて良かっなと言ってっくれた。銀八さんにとってはお姉さんにあたる人だ、会えてたことに感慨深げに頷いていた

卒業アルバムを捲りながら写真と万年筆を見せると懐かしそうに写真を見て万年筆を撫で「この万年筆は俺がバイトして誕生日にプレゼントしたものなんだ」と言いながらキャップを回すとペン軸にG・SAKATAと彫られた金文字

長く使い方込まれた感じの艶のある黒い万年筆、金文字は既に薄くなっている


「これからこれを使えば」と言うと俺を見て「これはお前の親父さんのもんだろ、お前が持ってればいい」と言う

確かにそうかも知れないが、銀八さんは俺の大叔父さんにあたる人だった

最初に俺に会った時には確かに驚いたと言っていた、名前も同じだし銀八さんの子供かとも思ったがそういう訳でも無さそうだし、と

少し尋ねた限りでは親はいないということだし、余り深くは詮索しなかったのもそんな事をしたら俺を傷つけてしまうかも知れないと、第一そんなもん関係ないくらい俺のこと好きになってたしなんて聞いたこっちがこっ恥ずかしいくなるくらいの言葉がかえってきた

前は『好き』とか『愛してる』だなんて言わなかったのになんでか近頃そんなことをさらり言うようになったのはどうしてだろう

そしてある日新聞を読んでいて突然「S区に住むか?」と言い出した

えっ何それ、なんでそんな都会のど真ん中、それにここのマンションとかどうするの?って聞いたら新聞記事を指差すではないか

それにはS区に新たに制定されるというパートナー条例のことが書いてあった


今の法律では同性婚は許されないので戸籍いうのではなくパートナーとして婚姻と同等の権利を認めるといった条例がS区で出来るらしい

えっ、それって

「そういう事だよ」って


もう、なんで行きなりそんなこと

これって、

『そういう事』なんだよね

俺、その時どんな顔してただろう

笑ってたのかな、それとも泣きそうになってたのかな、でも隣に座ってる人は穏やかに笑って俺の手を握って「銀時さえ良かったら」と


答えはひとつだった







世間一般形式通りじゃないけども、それでも区切りとしてアレを買おうってことになりまして

とってもお洒落な店構えの店内に1歩足を踏入れればすっきりした直線的なフォルムにシックな色合いと柔らかな照明はショーケースに入ってる商品を更に際立たせていた

こんなとこに男2人で入るのはとても気まずい、店内は女性や若いカップル

それでもつらつらとケースの中を見て歩くとその中にそれらしいコーナーを見つけた

同じデザインのリングが一組づつ並ぶケースを見ているとすっきりと髪を纏め黒のスーツを着た綺麗なお姉さんが「ご結婚用の指輪をお探しですか?」とお決まりの言葉を商業スマイルで尋ねてきた

ええ、そうなんですが…ただ、、

2人で目配して答えあぐねてると何か察したのだろうかお姉さんは俺たちを店の奥に案内してくれた

そこは衝立で他の客の目線を遮るようにカウンターが置かれ椅子が2脚並んでた

これならば他の人の目線が気にならずゆっくり選ぶことができるとホッとしてるとお姉さんが選んだ指輪がカウンターに何種類か並んだ

その中で一番シンプルなデザインのプラチナリングに目がいった

互いのイニシャルを指輪の内側に刻印を頼み店を後にするときのお姉さんの笑顔は心より祝福してるように見えた







新学期は兎に角忙しい

師走って師が走るって書くけどあの師は坊さんだが現代の師、そう教師が走るのは4月だよなって思う今日この頃

新入生のあれやこれや、新学期のあれやこれや

近頃のお子さん達は手取り足取りしないと中々動かない

そんなんで君たち社会に出たとき荒波にざっぶーんと飲み込まれちまいますよ、あっぷあっぷして溺れちまいますよ、って思ったりするときもあるんですが、いかんせんちょっと前までゆとりでしたから

そんなんでも何とか登校拒否も出さずにゴールデンウィークまで漕ぎ着ける頃にやっと師は一息つけるわけでして

トシも相変わらず忙しくしてるんですが、退院してからもあんなにベビースモーカーだった煙草も自粛してるみたいです

我慢ってわけじゃなく、何となく身体がそうなったみたいで長年のニコチン生活もリセットして俺としては喜ばしい限りです

あの後、お祖母さんも小康状態を保ち桜が咲いてる時期にお見舞いに行ったら笑顔で歓迎してくれて、職員の人と入所者の人達とでお花見しながらビールを飲んでと賑やかな1日を過ごした

ただやっぱり最初に会ったときよりも痩せた感じがしたけど、それでも好きなお酒を飲んで始終上機嫌で自慢の歌声まで聞かせてもらった



トシと二人で俺の養い親のお登勢さんの元に挨拶しにも行きました

挨拶なんて改めてしなくていいよと俺は頑なに拒んでいたんだけどどうしてもって言うからさ

そしたらきっちり正座して頭を下げて“銀時さんと家族にならせて下さい”的な挨拶されて、俺の方がびっくりするやら照れ臭いやら嬉しいやらで

俺も鼻の奥がじんと熱くなりながら一緒に頭を下げるとお登勢さんが涙声で「宜しく頼みます」なんて言うからさこっちまで泣けちまった

そのあと松陽先生のお墓参りにも行き報告した

銀八さんから続いた長い縁、銀八さんも俺もこの人がいなかったら全く違う人生を送って来たかも知れない

墓参りの帰りに寄った寿司屋が美味しくってまたお登勢さんを連れて行きたい


そしてお義母さんとお兄さん夫婦達にも報告というか、一応自分達なりにけじめをつけましたと言うとみんな大層喜んでくれて

特にお義母さんは泣きながら喜んでくれた

快気祝いもかね前から言っていた天ぷらを食べに行ってその帰り甘味屋にお義母さんと二人だけで立ち寄った

あれだけ食べてまだ食べんのかってみんなには呆れられたけど『甘いもんは別腹よね』ってお茶目顔で誘われたら断ることなんて出来ない

落ち着いた店内は客も昼下がりとあってか疎ら

お義母さんは栗入り善哉、俺はクリームあん蜜をそれぞれ頼みペロリと平らげた後お茶のお代わりを頼んだ

お義母さんは熱いお茶を一口飲んでホッと一息し円筒の湯飲みを手の中で回しながら伏目がちになってお喋りの間が空いた

俺は天ぷらのコースの上に更にあん蜜が入った腹を椅子の背もたれに寄りかかり撫でながら店内に貼ってあるここの店の名物であるかき氷のポスターを眺めたこの店の名物のかき氷は生のいちごが氷の中に入ってにしかも掛かってるシロップも店主自慢の手作り。真冬でも注文があとをたたないという一品だ

しかし天ぷらの後の氷は食いわせが悪いとかでお義母さんに諌められ今回は断念したが今度来たときは是非食べてみようと思いながらちびちび茶を飲んだ




「銀時ちゃん、本当に十四郎でいいの?」


唐突にお義母さんが聞いて来た。どういう意味だろうと少し戸惑い答えあぐねているとそのままお義母さんは話を始めた

「もう40年も前になるかしら。あの子にいい人が出来たんじゃないのかしらって思った時期があったの。年頃だし大学生に上がったのを切っ掛けに一人暮しを始めたのもそういう事かしらと思っていたの…」

「そのうち紹介でもしてくれるかしら、なんて思っていたのだけども一向にそんなことはなくてね。突然アパートに行ったら部屋に男の人がいて、見れば高校のときの担任の先生じゃない。近くなんでたまに寄らせて貰ってるとか言ってたの」

「でもね、ある日手を繋いで歩く2人を見たの。思わず物陰に隠れて逃げるように家に帰ったわ」

「そして学校に連絡したの“いつもご懇意にして頂いてるようですがこれ以上のお気遣いは結構です”とか言ったかしら」

「先生は黙って聞いて『承知しました』ってそのまま電話を切ったわ」

「暫くしてかしら…、どういうわけがよく1人旅をするようになってね。たまに家に顔をだしても窶れて面差しも険しくなっていくばかりで」

「そんな旅ばかりして何処に行ってるのと言えば郷土の研究をしてるとか言うし、いつまでも独り身ではと言えば相手がいないと言い、見合いを進めれば断るの繰り返しで」

「そのうち旅に出かけることも無くなって思いきって聞いたことがあるの。もしかしたら忘れらない人でもいるのって」

「“そんな人はいない”って言ったけどその時悟ったの、あぁこの子はそうなんだって」

「私は考えに考えたわ。そしてたどり着いた答えが人の幸せというのはひとつじゃないっていうこと。周りから見れば希有なことかも知れないけど好きあう2人が一緒にいられるほどの幸せはないって…」

「愚かな私は悔いたわ。あのとき、あの子のためを思っての行動があの子を不幸せにしてしまったって。人の幸せというのは自分の尺度では計れない、そんなことさえ気が付かない愚かな母親でした」

「親が子に望むものはただふたつ、健康と幸せ。それだけで十分だと。だからね、銀時ちゃん。私もあなたの親として望むのよ。あなたの幸せを」

「いつの日か十四郎が重くなってしまうときが来るかも知れない。そのときはあなたの幸せを大事にして欲しいの。十四郎もそれをきっと望んでることだと思うわ」

義理母さんは穏やかな笑みを浮かべ諭すように小さく頷き『今度はかき氷を食べに来ましょう』と言った

でもね、そんな覚悟とっくに出来てます

それにそんなのあと30年も先の話。30年もたてば俺もじじいです

そしてトシが先に逝ったなら俺は彼を思って生きて行く。トシが彼を思って生きてきたように

この事を言葉で伝えることはしなかったけどお義理母の言葉には深く感謝し今度かき氷を食べる約束をした






トシの長年の友人の沖田さんが見舞いがてら家に遊びに来てくれた

しかも沖田さんの奥さんの神楽おばさんが焼いたアップルパイを持って

前に手土産に頂いたとき『美味しい』と誉めたら毎回持ってきてくれるようになった

素朴ながらも中身がぎっしり詰まったアップルパイはお世辞抜きで本当に美味しいからいつでも大歓迎だ

沖田さんも『飯作りはなかなか上手くならねぇんですがこいつだけはどういうわけだか上手く拵えられやして』とちょっと奥様自慢をなさる

沖田さんはいつも口が悪いがそれも照れ隠しなんだろう

「死にそうだっていうからこっちは香典準備してたっつうのにピンシャンして若いの貰って祝儀貰おうだなんて土方の野郎も悪運尽きないっうか」

「銀時さんもこんなじいさんでいいんですかい。まあ高い保険入ってさっさと殺しちまえばガッポリですがねぇ」

そんなこと言いながらも嬉しそうにしている

アップルパイを皆で頂きながら卒業アルバムを捲る

そこにはもちろん若い時分の沖田さんに神楽おばさんもいる。2人は同級生だったそうだ

「いっつも俺にくってかかるからなんて女だと思ってやしたらこんときからどうも俺に惚れてたらしくって」と写真をピンと指で跳ねるが“奥さんにベタぼれなのがバレバレですよ沖田さんと”心の中で突っ込んだ

懐かしそうにページを捲ると肝試しの写真に指を差し「こんときの土方の馬鹿がびびりやしてチビりやがったんですよ、ほら股間が濡れてんでしょ」と笑う。するとトシが「これは総悟が持ってたかき氷をこぼしやがったんじゃねぇか」と言う

二人が会うとまるで高校生時分に戻ったような話かたをして楽しい

そしてアルバムに挟んであった1枚の写真に目が止まった

あの2人の写真

沖田さんは俺をチラッと見て俺が頷いてるのを確認すると安心したように再び写真に目を移して

「この写真は俺が撮りましてねぇ、土方の馬鹿があんまりにも鼻の下伸ばしやがってるもんだから…、」

「あとから銀八さんに写真が欲しいって言われて焼き増ししたんですよ」

「ずっと持ってたんですね…、」

「土方の野郎はヘタレで大馬鹿ですが真面目で一途なヤツですぜ。銀時さん、こいつを宜しく頼んまさぁ」

そういいながらお持たせのアップルパイを美味しそうに頬張った




そして銀八さんの墓参りをした


少し遠くにあるその場所に

2人で


荒れているのかと思っていたら以外に綺麗になっている

どうやらトシは度々来ていたようだ

30年近い年月

想い、恋し、愛し、そして別れ

長かったのだろうか、それともあっという間だったのだろうか

線香を手向け墓石を語らうように見つめる彼の眼差し

きっとその瞳にはあの人の姿が見えているんだろう

何だか焼きもち妬いちゃうな

これからちょくちょく来ては見せつけちゃいますよ、銀八さん

俺は滲んできた涙を指先で拭った











新学期が始まり翌日に控えた入学式準備のため朝早くに2人で学校に行くと校庭の桜は満開に咲き誇ってまさに見頃

「ここで銀八さんと初めて会ったの」

「そうだ、ここだった」


握られた手にリングの感触があたる



風がそよぐ



なんだか懐かしい香りが匂いたったような気がした
































fin


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