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東方想天界
Stage7 万事他化自在天

Side - Akyuu Hieda -

ふぅ、次の章は…天孫降臨ですか。

高天原から天津神が、地上の国津神の本格的な侵略を開始した事件。
当時の地上における最大勢力、出雲の大国主と取引をすることで国譲りが行われた。

…この事は守矢神社に当事者も居ますし。
当時の事を聞いて来ましょうか。

「ごめんくださーい」

おや? こんな時に誰だろうか。

「はーい」

「あっ、こんにちわ」

おやおや、噂をしたら。

「東風谷さんじゃないですか、どうされましたか?」

「ええ、この間の宴会で話題に上がったので幻想郷縁起を見せて頂きたいと思いまして」

これはチャンスだ、かの神の巫女に渡りをつけれれば交渉が楽になる。

「構いませんよ、…けど折り入ってお話が」

さあ、阿礼乙女九代に渡る交渉術が火を噴きますよ!




万事他化自在天




Side - Gouri Kanayago -

人の気配はあるのに誰とも出会わないという不思議な体験をして黎玄の執務室に着く。

どうやら先客が居るようでドアからはかすかに話し声が漏れていた。

「……ぇ…って、なんでなのよ!」

「…ぁ、…ぉ…知らなくて良い事だ!」

…どうやら、友好的な話し合いではないようだ。

「妙ですね、総領様はいつもこの時間帯には書類と格闘なさっているのに」

永江君も時計を見て訝しげにドアを見つめた。
しかし、これは黎玄の問題で私たちがどうこう言うものではない。

そんな急ぎの用事でもないからこの問答が終わってからでもいいか。
そう思った矢先だった。

「っ!」

一瞬で全身の毛が逆立つ。
ジワリと嫌な汗が背筋を伝って流れる。

チリッと右のコメカミに痛みが走った。

「キャッ」

反射でその場から永江君を突き飛ばして飛び退く。

「ほぅ、よく気づいたの」

さっきまで何も無い空間だったところからニョキっと腕が生えていた。
子供のような小さく細い腕だ。
その腕は貫手の形をしていて、私たちの頭の在った所を寸分違わずに貫いていた。

「アホウ、そんな殺気垂れ流しで気づかぬ者があるか」

また手の持ち主とは別であろう甲高く良く通りそうな男の声がした。

「だ、誰ですか! わ、私たちを竜宮のっ」

ダメだ、永江君はパニックになっていて使い物にならない。

「ああ、知っているとも」

宙の腕を中心に空間が波紋のようにグニャリとうねる。

「だが、貴様らもワシが誰か知っておるか?」

うねりが光となって私と永江君を覆う。

「やめっ、ぐっ」

…これは、まさかっ!

「男の方は気づいたようじゃな。聡明、聡明」

バカな、こんな大物が動く訳がっ!

「ワシの他化自在天にようこそ」

光が消えると私と永江君は見渡す限り一面に空と大地だけが広がる世界にいた。

いや、目の前に二人、中性的な顔立ちをしている子供と無精髭を生やしてまげを結っている細身の男が立っている。

「なぜ、波旬様が…」

「なぜ、とな?」

子供の姿が掻き消える。
何処だ!?

「この他化自在天はワシの思うとおりにしか動かないのだ」

耳元でささやく声。

「だから、のう」

首に手をかけられる。

「見せてくれんか、お前の命の輝きを」

首に食い込んだ指から呪が流し込まれる。

「グ、ギッ」

顔の半分まで来た呪を霊力で力づくで押さえつける。

「ぬ。なかなかしぶといの」

バチン!

空気が爆ぜる。
肉が焦げる臭いが漂う。

「…女、何をする」

顔の七割が炭になった波旬様が顔をボロボロと崩しながら永江君を睨む。

「竜宮の遣いとして命令します。金屋子さんから離れなさい」

波旬様が首から手を離す。
次の瞬間には何事も無かったかのように、また男の隣に立っていた。

「興が冷めた。信長、狩れ。頭が残っていれば後はどうでも良い」

信長? 第六天魔王 織田信長か!?
まさか、地獄から脱走したという話は聞いていたが本当に他化自在天、第六天に居るだなんて。

信長は大きな欠伸を一つして腰から刀を抜いた。

「くあぁぁっ、俺は見ているだけのつもりだったんだがの」

その刀を一振りすると辺り一面が火の海に包まれた。

なんという霊圧だ、これが生前には地上の覇者として君臨し、死後も地獄の鬼を手玉に取り、地獄と冥界を混乱に陥れた魔王の才か。

「金屋子さんはダメージを受けています。奴には、私が行きます!」

「永江君!」

止める間もなく永江君は信長に向かって飛んでいってしまった。

「さぁ、邪魔者は居なくなった」

私の後ろから頬を伝う細い指。
さらに、もう片方の手が肩口を撫でる。

「ア゛ア゛ッ!」

霊撃で跳ね飛ばす。

「っうあ、クラクラする。堪らないよ」

波旬様はケタケタと笑う。
後ろに振り向きながらその横面に思い切り拳を叩き込む。

グシャリと骨を砕く感覚が手に伝わる。

「速い速い。あーあ、利き腕がオシャカだ」

が、しかし私が捕らえたのはコメカミからアゴまでを守る波旬様の右腕だった。
そして、俺の右腕も『同じ場所』が折られていた。

「さぁ、次はどこだい?」

腕を庇いながら霊力を消費して無理やり骨をくっ付ける。
…永くなりそうだ。

私は久しぶりにギリリと奥歯を噛み締めた。


※他化自在天って何?
 天界の一つ、欲界(6つ)の最高界。だから第六天とも言う。君臨するのは第六天魔王 波旬。
 想ったことが現実となる世界。だから、住人の想定外の事態は起こらない。停止する世界。
 天界『無色界(非想非非想天)>色界>三禅天>二禅天>初禅天>欲界(他化自在天)』>人間界>地獄
 界の仕組みは上記の通りとなっている。基本として人から成った天人が住むのは初禅天である。

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あきゅろす。
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