東方想天界
Stage6 二人の魔王
Side - Akyuu Hieda -
現在、日本神話と呼ばれる伝承のほとんどが記録されている『古事記』、『日本書紀』。
高天原の神々(天津神)が国津神、奉ろわぬ神を調伏して高天原神話に統合していく話である。
国津神の始まりは天界を追放された素戔男尊(すさのおのみこと)がヤマタノオロチを退治して、櫛名田比売(くしなだひめ)を妻に貰い受けた事からである。
その後、スサノオの6代後の子孫である大国主(おおくにぬし、後の大黒様)がスサノオの娘、須勢理毘売命(すせりびめのみこと)と結婚し少彦名(すくなひこ)と共に葦原中国の国づくりを始めた、と。
読めなくなったご先祖様の本の複製って中々大変なんですね。
初代、稗田阿礼(ひえだのあれい)が書いた注釈版日本書紀。
まさか、今度本屋に出すだなんてビックリしましたよ。
9回の転生で初めての事だ、資料ではなく娯楽の読み物として本を書くことは。
二人の魔王
Side - Rou Mitumine -
「総督!」
「何だ?」
「か、金屋子が竜宮に現れました!」
「何だと!?」
クソッ、なんてタイミングだ!
今から黎玄の野郎を拉致して竜宮を制圧しようとしていたのに!
「捕獲隊、いつでも動けます。予定を早めますか?」
「勝手な真似をするな、全員待機だ!」
黎玄の拉致に主力の大半を割いているのに、馬鹿力の金屋子まで同時に相手できるか!
自分の私室の隠し戸を乱暴に蹴り開ける。
部屋の中央には童子が寝転がってせんべいをかじっていた。
「おお、荒れておるな」
コイツだけには頼りたくなかったが、背に腹は変えられん。
「っ! 依頼だ」
「代価は何かの?」
聞くまでも無いだろうに、お前に事を頼むときはこれを差し出すしか無い。
「俺の死後の魂だ!」
にぃっと裂けた様に奴の口が開く。
ああ、おぞましい。
「ああ、ああ。確かに承った。で、何をして欲しい?」
「今、竜宮に居る金屋子剛李の抹殺だ」
「ほう、地上に堕としたのではなかったのか?」
そうだ、金屋子を失脚させるのには苦労した。
奴はこれまで失敗と呼べる失敗をしていない。
しかし、逆にこれと言った功績も挙げていない。
だから、右大臣に賄賂を渡し竜神に口添えさせたのだ。
竜神は単純だ、他人を疑わない。
『竜神様。金屋子はこれと言った功績を挙げておりませぬ。一度、役職から外してみたら如何ですか?』
案の定、竜神は右大臣の言う事を鵜呑みにして金屋子を監察御史から外した。
代わりに俺の息のかかった者を監察御史に送っておいたが、早々に管理責任を問われて失脚した。あの愚か者めが…。
「返り咲いた訳ではない、ただの天人として竜宮に居る」
「分かった。この第六天魔王 波旬様に任せておけい」
第六天魔王はケタケタ笑いながら足元に門を創り出て行った。
「クッ、ククククク」
奴が完全に出て行くと、自然と笑いがこみ上げてきた。
「ハハハハハハ」
そう、奴との契約が果たされるのは俺の死後。
ならば、永遠に死ななければ良い。
「ハッハッハッハッハッ!」
俺が天界の支配者となって天津者の世界を、そして不死と成るのだ!
Side - Rokudaitenmaou Hajun -
カカカ、バカな男よ。
このワシが貴様の死後まで大人しく待つと思っているのか。
この第六天魔王は釈尊(しゃくそん。仏陀の事)に捧げる供養を断られたときから決めたのだ。
待たぬことをな。
金屋子と三峰、2人のしかも天界の創成期から居る天人の魂が手に入るのだ。
ここ10万年で最も大きな収穫だ。
「カカカカカ、実に良いことよのう。なあ、信長よ」
「気づいておったか」
ぬぅっと刀に炎を纏わせているやせ細った男が闇より出てきてワシの隣に立つ。
現世でワシの名を名乗って地獄に落ちたが、地獄で鬼相手に大立ち回りをして脱走をした大悪党。
一時は現世の覇者となった英雄、織田信長。
「やらいでか、お主はワシが出る戦場という戦場に必ず立ち会っているではないか」
そう、こやつは今もワシが死んで消滅したら第六天魔王の座を奪おうとしているのだ。
良い、実に良い。
その貪欲さ、神を知ってなお恐れぬ不遜さ!
第六天魔王の素質が十分ではないか。
「そうだったかの?」
「まあ、良い。手伝え、天人殺しだ」
さあ。
「ククク。で、あるか」
ワシを奪って見せろ。
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