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東方想天界
Stage1 緋色の豪雨

Side - Gouri Kanayago -

朝食を取りながら金屋子 剛李(かなやこ ごうり)は窓の外の土砂降りを眺めて呟いた。

「…今日も雨か」





緋色の豪雨




それは、突然の事だった。
にわかに曇る空、稲光と落雷。
だだの、夕立だろうと洗濯物を家の内に取り込んで雨に備えたのは確か七日ほど前だった気がした。
それっきり昼夜を問わず土砂降りである。


その雨は剛李が生きてきた間で最も強い雨だということに彼は気付かなかった。




金屋子 剛李は天人である。

本人も覚えていないほど昔、鍛冶の神である金屋子神の推挙によって天人の末席に加えられた。

剛李は鍛冶の道では大成しなかったけれど、その過程における火の扱いについては金屋子神も認める程の才能を見せた。

しかし、そんな剛李を天然痘が襲った。

半年の闘病後、臨終の間際に剛李は生命力を振り絞って起こした焔を神棚に差し出して地に這って祈った。

『金屋子神よ我が焔を納め奉る。代わりに、我が命を延ばしたまえ』

それに対して金屋子神は剛李に高天原から桃が入った酒桶より盃一杯分を酌みとり、その盃を地にべったりと湿疹だらけの顔をつけた剛李の口元に送った。

「その霊桃酒を一口飲めば命は助かり、傷も癒える。ただし、飲んだならば神を奉じ悠久を生きる天人として生きよ」

それを聞いた剛李は、生気の無い目をカッと見開いて盃ごと飲み込むように顔の皮膚が裂けるのも厭わず大きく口を開けて霊桃酒を飲んだ。

こうして彼は金屋子の姓を賜り、人から天人となって高天原に座す金屋子神の代理として天界へ行く事になった。
実はぶっちゃけた話、金屋子神のパシリである。

けれども、今は天界でいろいろ有り、金屋子神の許しを得て地上に降り人間の里の近くで鍛冶屋を営んでいる。






突然、戸が叩かれる。

「もし、剛李殿は在宅か!?」

片付けようと流しまで持って行った食器を洗い桶に漬けて戸を開ける。
青白く長い髪の女性が蒼い傘を持って立っていた。
里の守人、知識と歴史の半獣。
上白沢 慧音(かみしらざわ けいね)だ。

「おはようございます。剛李殿」

「おはよう、こんな雨の日よく来られた。散らかっているが上がってくれ」

「いえ、そんなに長居をする訳では無いので…」

「こんなに寒い日なんだ、茶ぐらい出させてくれ」

慧音は渋ったが、剛李が二人分の湯呑みを用意すると「では、失礼します」と言って高下駄と泥よけの足袋を脱いで部屋の真ん中にあるちゃぶ台に向かって座った。

「粗茶だ」

「頂きます」

熱すぎず、けれど冷たくも無いお茶を慧音は少し口に含んで味を楽しんだ。

ほっと一息ついた後、慧音が湯飲みを置く。
どうやらすぐ本題に入りたいらしい。

「何かあったのか?」

「剛李殿は先日の地震をご存知か?」

「いいや、いつの事だ?」

慧音は眉をピクリと動かしたが話を続けた。

「大体一週間ほど前に博麗神社を直下型の地震が襲った事です。本殿と社務所は倒壊しましたが幸いなことに博麗の巫女は無事でした」

「ほう、地震の前に竜宮の使いは来たのか?」

「さあ、私には何とも。詳しくは本人に聞いたらどうですか?」

その後にいくつかの世間話をして互いの湯飲みが空になった頃に慧音はごちそうさまと言って立ち上がった。

「ああ、そう言えば里を出たときは晴れていたのだけれど、ここに近づくに連れて空が曇り雨が降ってきたのですが何かご存知ですか?」

「いや、ここ7日ほどはこんな調子だ」

この後、地震の顛末を聞きに博麗の巫女の元に行こうと思っていたがこの雨の事も聞いてみるか。

慧音がガラリと戸を開けるとザァっと雨の音が家の中に響いた。

雨は未だ止む気配は無い。

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