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小説
傍にいると誓える貴方の横顔に恋してた。


「Happy Birthday Neil !!」
ふぅっと一息でロウソクの火を消して、クラッカーが四方八方からパンパンと鳴らされる。
「5歳の誕生日おめでとう、ニール。」
隣にいたアニューに頬へキスされて、ニールはえへへと笑った。
「ほら、ニール。プレゼントだ。」
アニューとは逆隣にいるライルから差し出されたプレゼントを、ニールは嬉しそうに手に取った。
「ありがとう、父さん、母さん。」
屈託のない天使のような笑顔のニールを、両親を含めた6人の大人たちが見つめている。
「もう5歳かぁ、本当に早いよね。子供の成長って。」
今日はハレルヤをマリーに託して、仕事が終わってからここへやってきたアレルヤが言った。
「ハレルヤももう5歳になったもんね。あ、はい、刹那。」
かつての仲間であるフェルト・グレイスは、ニールたちディランディ一家と会うのは昨年のニールの誕生日以来約一年ぶりである。
飲み物の入ったカップを刹那に渡し、刹那がフェルトに礼を言う。
「ていうか刹那、両手に花だねえ。」
ワイングラス片手にライルが刹那を揶揄した。
刹那の右隣にはティエリア、左隣にはフェルトがいるからだ。
「ライル…。」
「そー怒るなってぇ。ほら、ニールにプレゼント渡さないのか?」
ライルに言われて思い出して、刹那は自分の膝の上に置いていたプレゼントをニールに渡した。
「ニール、誕生日おめでとう。俺とティエリアとアレルヤ、3人分のプレゼントだ。」
刹那から手渡されたプレゼントは、ニールが抱えなければならないほど大きい。
ありがとう、と少しはにかみながらニールが笑った。
「開けていい?」
「ああ。」
ガサガサと、パールグリーンの包装紙を開けていくニール。
そんな姿すら愛しくて、刹那はまた優しい笑顔を向けた。
そんな刹那を、フェルトもまた見つめていた。
ティエリアはフェルトの視線の方向に気付いてはいたが、敢えて何も言わなかった。

「わあ、何これ!」
ニールが開けた包みから出てきたのは、オレンジ色の球体。
それを見て、アニューとライルとフェルトは驚いたような顔をした。
「ハロだよ、ニール。」
腕を伸ばして球体の背面部を探りながらライルが言った。
ハロ、というらしいオレンジ色のそれは、アレルヤがカチリと電源のような小さなボタンを押した途端、耳のようなものをパタつかせて目をチカチカとさせた。
「動くの!?」
「ああ。」
「こんにちは、ハロ。僕ニール!」
『ニール!ニール!』
喋った、と大喜びするニールに、その場いる全員も笑う。
ニールにいい玩具ができた、とライルもアニューも喜んで、フェルトは久しぶりの友達との再会に喜んだ。

「ほらニール、もう一回刹那たちにお礼言って。」
「ありがとう!」
どういたしまして、と笑う3人に、ニールは満面の笑みを見せた。



「少し、外の空気を吸ってくる。」
パーティーの盛り上がりですっかり酔ってしまったライルとアレルヤの空気に負け、自分も酔っぱらいそうになった刹那は部屋を出た。
「あ、私も行く。」
刹那が立ち上がったのに続いてフェルトも立ち上がり、二人で部屋から出ていった。
ハロと遊んでいたニールは、ガチャリとドアが開く音に気付いてそちらを見た。
刹那の服の裾を掴んで部屋を出ていくフェルトの姿を見て、ニールはぎゅう、と強く手を握り締めていた。

「やっぱりすごいね、星。」
フェルトはアイルランドの満天の星空を見上げながら言った。
今は経済特区の東京で宇宙開発の仕事に関わっているので、こんなにたくさんの星を見ることはあまりないのだ。
「そうだな。…寒くないか?」
「うん、平気。」
アイルランドの夜は気温がとても低い。
一応上着を着ているとはいえ、昼よりも遥かに低い気温に刹那はフェルトを心配した。
「刹那こそ、大丈夫?寒いの苦手でしょ?」
「大丈夫だ。もう慣れた。」
「ふふ、よく来てるもんね。」
二人並んで空を見上げると、一際輝く青い星の光が見えた。
あれはなんという星なのだろう。
刹那はぼんやりと、そんなことを考えていた。
―ほら刹那、あれがオリオン座。
この地で彼と見たオリオン座は、今はもう見えないのだろうか。

「刹那、何か…欲しいものってある?」
隣に立つフェルトが、白い息を吐きながら言った。
「…欲しいもの…?」
「ニールの誕生日が終わったら、次は刹那の番だから。4月7日。」
ああ、と刹那は呟いた。
そういえば、自分ももうすぐで誕生日だった。
昔から誕生日を祝う習慣もなかったのですっかり忘れていた。
…いや、一度だけ、一度祝ってもらったことがあった。
16歳の誕生日。
なぜもっと早く言わなかったと彼に怒られた誕生日。
彼と恋してから、最初で最後の二人きりの誕生日。
「刹那、いくつになるんだっけ?」
「29、だな。来年は30だ。」
欲しいものか、と刹那は続けた。
ううんと悩んでみるが、元来物欲のない刹那には欲しいものというのが思いつかない。
生活に必要なものは大体給料で買ってしまうし、金や何かにも困っていない。

それに、心の底から欲しいものは、二度と手に入らないと知っている。

本気で悩む刹那を見て、フェルトは小さく笑った。
しかし、ふと何かに気付いたようで、急に表情を変えた。

「まだ、ロックオンのことが、好き?」

フェルトの一言に、刹那は目を見開いた。
「……え…?」
刹那が呟くと、フェルトは桃色の髪を揺らして刹那を見た。
翡翠の瞳が、彼とだぶる。
「知ってるよ、…刹那が本当に欲しいもの。」
フェルトの表情はどこか寂しげで、刹那は何も言えなかった。
「私だって、ロックオンのこと好きだったんだもん。わかるよ。」
「…。」
「でもね、ちゃんと自分の中で整理したの。だから、今私は平気なの。生きていられるの。」

まだ自分自身の中で気持ちに整理のつかない刹那は、フェルトのそんな部分をすごいと思う。
自分にはできないことを、自分より2つも年下の彼女はどんどん乗り越えていく。
それが歯痒くて、刹那は更に何も言えなくなった。

「ねぇ、刹那。」
「…?」
「私じゃ、駄目かな。」
「…っ!?」
頬を仄かに染め、真剣な瞳で見つめてくるフェルトに、刹那は気圧された。
「私じゃ、刹那の心の支えに慣れないかな。」
刹那とてそこまでバカではない。
フェルトの言いたいことは、ちゃんとわかっている。
そして、彼女が自分をどう思っているのかも。
彼女の好意は手に取るようにわかり、わかりやすいそれは、刹那にとってはとても嬉しいものだった。
しかし、自分は、フェルトの気持ちには応えられない。
応えることができない。
自分の心にはいつも彼がいて、別の誰かの入る余地なんてない。
フェルトのことを一番に考える余裕など、自分にはない。
きっとそれはフェルトを傷つけてしまう。
フェルトのことは、もちろん好きだ。
だがそれは恋人関係のような甘い気持ちではなく、家族愛のような、ごく自然なものだった。

「…寒くなってきちゃった。帰ろ、刹那。」
押し黙る刹那に、フェルトがわざと明るくするように言った。
くるりと後ろを向いて歩きだしたフェルトに、刹那は背中越しに小さく声を発した。
「…、…すまない…俺は…、…ッ。」
背後でフェルトが立ち止まった気がして、刹那は言葉を詰まらせる。
「…謝らないでよ。」
「…ああ…。」
こちらから彼女の顔は見えないが、きっと泣きそうな顔をしているだろう。
自分はいつだって、彼女を悲しませることしかできない。
戦場に行く時、負傷して帰還した時。
悲しい顔をさせることしか、できなかった。

歩きだして、家へと入っていく音を聞き届けてから、刹那はまたぼんやりと空を見つめて白い息を吐いた。

「……ニール……。」





刹那も家の中に入ると、足元になにやらぶつかってくるものがあった。
下を見ると、それはニールで、泣きそうな顔でひしっと刹那の足にしがみ付いていた。
「…ニール、どうした?」
聞いてもニールは答えてくれず、ただ刹那のズボンに顔を押しつけるだけだった。
そんなニールに代わって答えてくれたのは、後からやってきたアニューだった。
「刹那がなかなか帰ってこないーってべそかいて、大変だったのよ。」
アニューがニールを刹那から引き剥がそうとするが、ニールは頑固に刹那のズボンを掴んで離れなかった。
「もう、ニールってば。…刹那、悪いけどニールを寝かし付けてくれない?」
「ああ。…行こう、ニール。」
刹那がニールの両手を取ると、ニールは涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげた。
とめどなく涙を溢れさせるニールを抱き上げて、刹那は二階へと向かった。

ニールの部屋に入ると、ドアの隙間からぴょこんとハロが入ってきた。
ベッドにニールを下ろすと、ハロもベッドへ上がった。
「ニール、どうしたんだ?」
泣き止まないニールを、刹那が優しく撫でる。
ニールは潤む碧い眼で刹那を見ると、刹那にぎゅうと抱きついてきた。
「…ニール?」
「…。」
「ごめんな、置いてって。」
「…。」
ぐずぐずと鼻を鳴らすニールに、刹那はただ謝った。
「もう、離れないから。ニールの傍にいるから。」
ニールを毛布の中へと入れたが、ニールは刹那の服を掴んで離さなかった。
そんなニールの小さな手をそっと握って、刹那はふ、と微笑んだ。
「…。」
「眠いだろ、寝ないのか?」
きっとぐずっているのは眠いからなのだろうと判断した刹那だが、どうやら違うらしい。
目をらんらんとさせてニールは刹那を見つめていた。
「ニール?」
「…だって…。」
「?」
「だって、寝たら刹那、いなくなっちゃうでしょ?」
何かに、心を串刺しにされた気がした。

「…。…言っただろう、傍にいると。」
「…ん。」
「ほら、もう寝ろ。」
刹那がニールのクセのある髪を梳くと、ニールは瞼をとろんとさせた。
やはり眠かったのだろうか。

しばらくしてから聞こえてきた寝息に、刹那は安堵の息をもらしたが、そこから離れることはできなかった。

今度こそは傍にいると誓った。
傍にいてやれなくて、自分の目の前で散っていった彼。
もう離れない。
それが、唯一自分にできることだから。

「愛してる、ニール…。」
かつて自分と愛し合ったひと。
自分に“人を好きになること”を教えてくれたひと。
自分がこの世で最も愛したひと。


もう、離れないから。

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