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小説
誰も誰かの代わりになんてなれない。



思い返してみれば、あの男はいつも彼の傍らにいた。
他人と関わることが苦手な彼をやんわりとカバーし、周りと溶け込ませていた。

それは自分も例外でなく、あの男がいたから、いまの自分がいるのだ。
あの男のおかげで変わった自分がいるのだ。

彼に世話を焼くのは、あの男の請け売りだから。
彼の髪を撫でてやるのは、あの男がやっていたから。
傍にいるのは、あの男の代わりだから。


しかしそれも、もう終わる。


「君はニール・ディランディの生まれ変わりなんだよ。」


ティエリアが一通り話し終えて傍らの青年を見ると、青年は信じられないといった顔でティエリアを見ていた。
「信じられない、だろうな。無理もない。君が生まれて17年、内緒にされていたんだ。」
「…17年…。」

幼い頃はよく訪れていた公園に移動してベンチに座って話を聞き始めてから、どれだけ時間が経ったのだろう。
ティエリアの話は現実味がなくて、だがしかし心臓が痛くなるほど感情移入してしまって、ニールはひどく混乱していた。

自分が誰かの生まれ変わり?
それが刹那の恋人だった?
しかも自分と瓜二つで、父の双子の弟?
じゃあ刹那は…、

「…刹那は…俺を通してその人を見てたって…こと…?」
「そうなるんじゃないか?」

ずっと、刹那は父を想っているのだと思っていた。
だから悔しくて、あんなことまでしてしまって…。
ニールは自分のやったことが急に愚かで最低な行為だと思い、顔を赤らめて頭を抱えた。
すべては自分の勘違いから始まったこと。
「俺…バカじゃねえの…?」
「バカなところは生まれ変わっても変わらないということだ。バカは死んでも治らんらしいな。」
横に座るティエリアにぺしんと頭を打たれ、ニールはうう、と呻く。

「…君は、自惚れてもいいということだ。」
「…え?」
「刹那は、君を想っているということだよ。前世からずっと、な。」
ティエリアが言うが、ニールは気まずそうな顔で俯いた。
「…どうした?」
「…ちがうよ、ティエリア。刹那は俺を想ってなんかない。」
ニールの瞳が、数メートル離れたところにあるブランコを見つめた。
父親らしき人物に見守られてブランコを漕ぐ子供を、あの日の自分に重ねた。

「確かに刹那は俺を見てくれる。俺がその人の生まれ変わりだから。でも、俺はその人じゃない。だから、刹那は俺を想ってなんかないんだ。」

「…ニール…。」
自分はいつも刹那の視線の先にあった。
でもそれは、自分がその人の生まれ変わりだったから。
刹那がかつて涙を零した、『ロックオン』とは父ではなくその人のことで、自分がいるから刹那は『ロックオン』を思い出す。
刹那を悲しませたのが自分の存在のせいだったとわかった瞬間、自分に嫌悪感を覚えた。

「だから、俺じゃない。」
ニールの瞳の端に、うっすらと涙が浮かんでいることにティエリアは気付いた。


「刹那に、聞いたのか?」
「…?」
「本人に直接気持ちを聞いたのかと言ったんだ。」
「…、…そんなこと…できるわけないじゃん…!」

「だから君はバカなんだ。」

ティエリアの言葉が、ニールの胸に突き刺さる。
「…ンな言い方…。」
「聞かなければ、わからないこともある。」

ニールは顔をあげて、ティエリアと向かい合った。
ティエリアの真剣な眼差しは、ニールをしっかりと見つめていた。

「特に刹那みたいな面倒くさい相手にはな。」

ティエリアの眼差しは、もう怖いものではない。
強くて、真剣で、頼もしい眼差しだった。

「ほら、わかったらさっさと行け!」
「っ痛!」
ベシンと背中をぶたれて、ニールはベンチからよろよろと立ち上がった。
小さな頃、ティエリアにからかわれた時のように半べそをかきながから数メートル歩いてから立ち止まり、ティエリアの方を振り返った。

「ありがとう、ティエリア。俺、がんばるよ!」
ニールはそう言うと踵を返して走りだした。

行くべきところはもうわかっている。
迷いは、ない。



ティエリアがふぅとため息をついた時、コートのポケットに入っていた携帯端末が鳴った。
何事かと思ってみればそれは電話で、しかもかけてきた相手の名前に驚愕し、ティエリアは急いで通話ボタンを押した。
『あ、もしもし、ティエリア?いま大丈夫かな。』
端末に映し出されたその顔に思わず涙しそうになったのを必死にこらえ、ティエリアは応えた。
「どうしたんだ、電話してくるなんて珍しい。」
相手は照れくさそうに笑うと、なんとなく、と答えた。
ティエリアは、その笑顔が好きだった。
自分だけに向けられていたその笑顔が。
いまはもう、自分だけに向けられるものではないけれど。

『なんとなく、ティエリアと話がしたくなったんだよ。』
「相変わらず不思議な奴だな、君は。」

きらきらした、宝石のようなオッドアイ。
浅黒い肌。
自分にはないもの。
いま見ても、愛しいと思ってしまうが、不思議と胸が痛くなることはなかった。

「ありがとう、アレルヤ。」

いきなりのティエリアの発言に、アレルヤは目をぱちくりさせた。
『…どうしたの、ティエリア?』
「どうもしないさ。」

ティエリアは、しばし旧友との会話に耳を傾けることにした。

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