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小説
感じた君のあたたかさに安堵した。


3月になっても、北国であるアイルランドは寒い。
春はまだ遠くて、冷たい空気が肌を刺す。
しかし空は雲ひとつなく晴れて、こんな天気の日は散歩日和りと言ってもいいだろう。
そのためか公園には人影が多く、彼らも、そのうちのひとつだった。
「ねー父さん、まだぁ?」
「ああもう、さっきから5分おきに聞くなっつぅの!」
噴水の前に、2つ並ぶ大小の人影。
親子と思しき彼らは、30分ほど前からここにいる。
待ち合わせをしているのだろう、待ちきれない子供の方は、先ほどから何度も何度も父親にまだかまだかと問い掛けていた。
親子はとてもよく似ていて、二人とも少しクセのある茶髪に、碧い瞳、白い肌をしていた。
なかなかに顔立ちもいいため、彼らを振り替える人も多い。
「だぁってー。」
「だってじゃなーい。大体お前が30分も前に家出たがるからこんなに待つ羽目になってんだぞ?」
父親に、呆れたように言われ、子供はぷぅ、と頬を膨らませた。
その愛らしい姿に、父親はクスリと笑って、子供を抱き上げた。
「ほら、そんな顔してっとあいつに笑われちまうぞ?」
父親にそう言われ、子供はぱっと表情を戻した。
それに気をよくしたのか、父親は子供をぎゅうと抱き締めた。

そんな仲睦まじい親子を少し遠くから見て、優しく微笑む人物がいた。

「…随分早いな…。10分前に着くつもりで来たんだがな。」
ジャリ、と足音を鳴らして現れた青年に、二人は振り替える。
「よぉ、せ…」
「刹那ぁー―――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
父親がその人物に声をかけるより先に、傍らの小さな弾丸が叫んだ。
そして父親を余所に走りだして彼にタックルをして、そのまま倒れこんだ。
「…痛…、…相変わらず元気だな。」
仰向けに倒された青年は、胸の上でニコニコと笑う子供の頭を撫でながら言った。
「ニール、久しぶりだな。」
ニール、と呼ばれた子供は、青年に名前を呼ばれたのが嬉しかったのか、一層ニコニコと笑って青年に抱きついた。
「刹那っ、会いたかったっ!」
「くぉら!このクソガキ!」
後ろから近寄ってきた男に襟首を捕まれ、ニールは猫のようにひょいと持ち上げられた。
「お前〜、毎回毎回迷惑かけるんじゃねえっての。」
「なんだよぉ、父さんのケチ!」
ギャンギャンと言い争う父子に青年はまた微笑んで、服についた埃を払って立ち上がった。
「ライルも、久しぶりだな。」
「っつっても2週間だけどな。」
ライルと呼ばれた父親は、ニールを地面に下ろして笑った。
「お前、なんかまたデカくなったんじゃねぇの?」
「お前が縮んでるんじゃないのか?」
ライルが言った言葉に、青年が軽く冗談を飛ばす。
それは、彼らが出会ってから4年経ってようやくみられるようになった風景。
「なんだとコノヤロ。」
「父さん、刹那をいじめるなよ!」
ライルが青年の頭をコツンと小突くと、ニールがライルと青年の間に立ちはだかって言った。
ニールなりに青年を守っているつもりなのだろう、その姿に青年はまた笑顔を浮かべた。

「ありがとな、ニール。」
そう言って青年がニールを抱き上げると、ニールは嬉しそうに青年にぎゅうっと抱きついた。
「えへへ。」
「あーあ、甘えちゃって。アニューに言い付けたるかんな。」
青年に甘えるニールに、ライルが揶揄するように言う。
しかしニールはお構い無しに、青年に擦り寄った。
「いいさ、このまま抱いて行く。」
「悪いな、刹那。」
青年―刹那・F・セイエイは、ライル・ディランディと共に、彼の家に向かって歩き始めた。


「ライル、悪い、これ持ってくれないか。落ちそうだ。」
ニールを抱いて歩く刹那は、さすがに荷物も持って歩けないことに気付いたのか、ライルに自分の荷物を差し出した。
「はいよ。…何これ?」
ライルが刹那から受け取ったのは、小脇に抱えられる程大きな、きれいにプレゼント包装された丸いもの。
「プレゼント。明日、誕生日だろ。」
ライルを振り返らずにすたすたと歩いていく刹那の背中を見て、ライルはしばらく考えてから言った。

「俺にー?」
「バカ。ニールにだ。」

ズバっと刹那に切り裂かれ、ライルは少し落ち込む。
彼的に冗談のつもりだったのだ。
ライルの誕生日は3月3日で、偶然なことにニールの誕生日も3月3日。
少しだけ期待を兼ねた些細な冗談だったのに、とライルは少しいじけた。
そんなライルを見て、刹那はふぅとため息をついてまた歩きだした。
そしてポケットの中を片手で探り、探り当てたものをぽいとライルに投げた。
「お前にはこっち。」
ライルは危うく落としそうになりながらもキャッチをして、手の中の2つのプレゼントを見つめた。
ひとつは、薄い紫の包装紙に濃い紫のリボンの細長い箱。そしてもうひとつは、薄い青の包装紙と紺色のリボンで包まれた六面体の小さな箱だった。
「ひとつは俺から。もうひとつはティエリアから。」
ライルはその言葉を聞くと、また2つの小さな箱を見つめて微笑んだ。
細長い箱からは、“Dear Lyle From Tieria”と書かれたカードが少しはみ出していた。
ふ、と柔らかく笑ったライルを見て、刹那もまた笑った。
「ティエリア元気?」
「実に煩い姑だ。」
冗談を言う刹那に、ライルが声をあげて笑った。
「ハハッ。そういや今日ティエリアは?」
「アレルヤのところだ。ハレルヤに、3日遅れのプレゼントを渡しにな。」
刹那はかつての仲間の家庭を思い出していた。
左右で瞳の色の違う彼は、金色の瞳の乙女と見事に添い遂げ、現在は一人息子をバカみたいに溺愛している。
彼ら親子はニールとライル同様に誕生日が父子で同じ日なので、あっちもこっちも二人分だな、と刹那はぽつりと零した。

「ねー刹那ぁ。」
「なんだ?」
「ティエリアは来てくれないの?」
自分の腕の中で眉を寄せる小さな少年に、刹那は宥めるように言った。
「大丈夫、明日にはこちらに来ると言っていた。」
刹那の台詞にニールは安心したのか、にっこり笑って刹那にぎゅうと抱きついた。



刹那がニールを見つめる瞳は、誰のものより特別だ。
それは、彼の過去が関係している。
ソレスタルビーイングとして戦いに明け暮れた毎日。その毎日にいつも刹那の傍らにいた男。
ニールと、同じ名前を持つ男。
常に成層圏の彼方を見つめ、刹那にひとを愛することを教えてくれた。
彼がいたから、刹那はいまこうして笑っていられるのだ。
ニールは、その男の『生まれ変わり』だと人は言う。
確かにニールは彼に瓜二つだ。
それに、ニールしか知らない場所を知っている。ニールしか知らないことを知っている。
生まれたばかりの頃、読めないはずの文字も読めた。
初めて挑戦した射撃で大物を捕り、それらの行為は周囲の人々―かつての彼を知る者すべてを驚かせた。
刹那も例外でなく、ライルよりも驚愕した顔でニールを見て、涙をたくさん流して泣いた。

『今の』ニールは、自分がそんな『生まれ変わり』だとは知らない。
刹那やライルたちも、今後も知らせないつもりである。
『ニール』として、ライルの息子のニールとしての人生を歩んでほしいからだ。



「ただいまぁー!」
玄関を元気よく開けたニールの声が家の中に響くと、奥からエプロンで手を拭きながら小走りにやってくる影が見えた。
「おかえりなさいニール、ライル。」
「ただいま、アニュー。」
「刹那も、いらっしゃい。」
「ああ、久しぶりだな、アニュー。元気そうだ。」
ライルの妻であり、ニールの母であるアニュー・リターナー、もといアニュー・ディランディは、帰宅した家族と客人をあたたかく迎えた。
「母さん聞いて聞いてー、刹那に抱っこしてもらったんだー!」
自慢するように母に言う息子の頭を、アニューはそっと撫でた。
「そう、うれしかった?ニール。」
「うん!」
元気に頷く息子に、アニューはクスリと笑い、手を洗ってくるようにと洗面所に促した。
ライルは靴を脱ぐと、ブーツの紐を解く刹那からコートとマフラーを預かって壁のハンガーにかけた。
「…あら?」
ふとアニューは何かに気付いて、刹那の隣に屈んだ。
「刹那、それなぁに?大きい…。」
刹那がいまライルから返してもらったニールへのプレゼントを、アニューは物珍しそうに眺めた。
刹那はああ、と頷いて、満足そうに笑って言った。

「プレゼントだ。ニールへ、俺とティエリアとアレルヤからの。」

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