外食ってテンション上がるよね 今日の晩ご飯は外食だ。 黒い軽自動車に乗った辰馬に連れられて、少し高めの中華料理屋に入る。中にはチャイナ服のオネーサンがいっぱいいて、銀時と高杉はウキウキしまくりだ(辰馬も、だが)。 「うわー…餃子の王将もいいけど、コレもやべぇな」 「なんだコレ、チャイナパラダイスじゃねーか」 「アッハッハッ、わしのオススメの店じゃきのぉ〜」 子供の様に周りをキョロキョロする銀時と高杉を、まるで子供が喜んでいるのを嬉しそうに見る親の様な辰馬の目に、桂は若干引き気味である。辰馬は完全に浮かれている。チャイナガールに連れられて、個室の部屋に入る。『坂本様』と洒落たネームプレートのあるところを見ると、予約席の様だ。流石、伊達に社長をしている訳ではないらしい。 「みんな〜、何食べるがか?」 「んと…俺、半チャーの味噌ラーメン!!あと、デザートに杏仁豆腐2コね」 「俺は…青椒肉絲(チンジャオロース)…とわかめスープで」 「俺はお子様ランチを頼もう」 まさかのヅラのオーダーに、3人が目を見遣る。よく見れば、おまけのオモチャに「ステファン(じゃないエリザベスだ!!)」があった。きっとそれ狙いだろう…。と3人は無理矢理自分を納得させた。あくまで推測なのでわからないが。 「つーかさ、大丈夫かな」 「何がじゃ?」 「俺ら3人とも、金持ってねぇぞォ?」 「うむ、金が無ければ…無銭飲食になってしまうな…」 「あぁ、金やったら、わし持ってきゆーよ。それば使うぜよ」 …What? 3人は一斉に辰馬を見た。金がある?4人が食える大金を? 「えっ、でも手ブラじゃん。財布持ってんの?」 「いんや、カードで」 「マジでか!」 「おう。わしの知り合いの店やきぃ…顔パスで充分なんじゃがのぉ…簡単に言えばタダ食いぜよ」 タダ食い…。こんな高そうな店で、タダ食い。 辰馬の凄さが改めてわかった。同い年とは言え、やはり世に名を馳せる大企業の社長様なのだから、俺らとはそこら辺のレベルが数段違う。こんないかにもフルコースが出てきそうな店を顔パスなんて。普通の高校生ではまず無理な話だ。 「今日はパーッと飲むぜよ〜!明日土曜やしのぉ!」 「よしきた!すいまっせーん生中3つお願いしまーっす!!」 「ちょ、俺はいら」 「もう頼んだんでキャンセル不可だよーん残念でした♪」 「銀時テメェェエ!!」 「…俺はカルピスを頼む」 今日は長い1日になりそうだ。 オーダーした料理が来ると、銀時は味噌ラーメンをペロリとたいらげ、半チャーハンを食べながらビールを飲む。「ぷっはぁ〜ぁあ」と言っているところを見ればオッサン以外の何者でもない。辰馬も傍らでビールをガブガブ飲んでいるところを見ると、どうやら二人は二日酔い覚悟で酔い潰れる気らしい。 「あれ、高杉…もう飲まねぇの?」 「…るせー天パ」 「酷い!何だよ晋ちゃん反抗期!?」 「刻むぞ」 辰馬と銀時は既に3杯飲み、酔いが回っている。高杉はまだ1杯も飲んでおらず、ちびりちびりと飲んでいるだけだ。桂は桂でステファン(じゃないe(以下省略))に夢中だ。しかも、辰馬はチャイナガールをナンパする始末。もはや迷惑客以外の何者でもなくなっている。 「オイ辰馬。帰ンぞ…勘定しろ」 「うぃ〜…あ、おりょうちゃん!餃子5人前お持ち帰りお願いしますぜよ〜」 「あ、はい。かしこまりました」 「ついでにおりょうちゃんもテイクアウt……すいません冗談ですあははっ」 うわ、鬼の形相ってコレの事なのか。 そんなおりょうを横目に、高杉は一人で歩けない酔っ払い銀時を支えながら、店を後にした。 「…ったく、わしは召し使いじゃない」 「すまぬな陸奥殿。俺以外酒を飲んでしまってな…」 「俺は運転出来るっつーのによこのクソ真面目が…」 「飲酒運転はいかんぞ。もし不注意で事故したらどうする!」 「事故らねーよバカ」 やいのやいのと騒いでいると、酔っ払い2人が目を覚ました。 「…ふぁ、なんじゃー陸奥がおる…」 「起きたかスカポンタン」 「アッハッハッ〜…お゙ぇ」 「…ぅ…ぎぼじわるい゙…」 「ちょ、銀時吐くなよ!?」 「ダメ…晋ちゃん助けて…」 「窓!窓を開けろ高杉!」 「ったく、辰馬邪魔なんだよ!窓、開けろクソモジャ!!」 後部座席には運転席側から辰馬、銀時、高杉と並んでいる。そのため手の届かない高杉は青筋を浮かべながら窓に手を伸ばす。その間にいる銀時は、真っ青な顔で今にも吐きそうだ。 「あいよー、ほりゃ銀時」 「ゔおえええええ…」 「あーあ…坂本支えてやれよ」 「…ぐ、ヅラ…ヤバいぜぼろろろろ」 「うわっ!高杉!辰馬がもらいゲロしたぞ!…高杉?」 「うぼろええええ」 「既にさっきから戻しちょるぜよ」 後部座席からは「おぼろろ」「うぼろええ」のオンパレード。桂と陸奥は横の窓を全開にしている。胃にぐっ、とくる酸っぱい臭いに堪えながら、車はぐんぐんと知らない所へ向かっていく。 「陸奥殿?どこへ向かっているのだ?」 「おまんらの新しい家ぜよ」 「?」 「頭がの、さっき買ってきたらしいきに。ったく…勝手な事ばっかしよる」 「家とは…どういう事だ坂本!!貴様、俺達に選択肢というものはないのか!」 「…ツッコムとこそこ?」 ズンズンと進む車。だんだん見慣れた景色が見える。どうやら近所の要だ。とある小さな一軒家の前で車が止まった。後部座席で屍と化した3人を放置したまま、陸奥と桂が車から降りる。白塗りのシンプルな外装に、真っ黒のドアが佇んでいる。ドアのゴールドがアクセントでとても色が合っている。 「高そうな家だな…」 「軽く(ピー)千万じゃな」 「な、なんと…」 「アッハッハッ!そんくらい大丈夫じゃ」 「あ、生き返ったのか坂本」 「おん。銀時と高杉はまだ寝ちゅう」 もさもさと頭を掻きながら辰馬がひょっこり顔を出した。少し顔色が悪いものの、どうやら酔いが醒めたらしい。流石辰馬。酔いが回るのも早ければ、醒めるのも早い。後ろで銀時と高杉が唸りながら目覚めるのを確認すると、辰馬は家の鍵を開けた。 「陸奥、ありがとのぉ」 「いつもの事じゃき、気にしちょらん」 「アッハッハッ!…さて、ヅラ」 「ヅラじゃない桂だ。うむ…運ぶか」 「わし銀時運ぶきぃ…ヅラは高杉運んじゃってくれ」 「了解だ」 ――只今、午前1時 はちゃめちゃな4人の新たな同居生活が幕を開けたのだった――… 辰馬と陸奥が夫婦にしか見えない← ←→ |