「わりぃ!おくれた!」
今日は前々から2人で計画していた、クロームと出かける当日。…まあようするにデートなんだが、恥ずかしいから「デート」なんて言わねえ。
なのにオレは10分ほど待ち合わせに遅れてしまったのだ。原因はあいつ。瓜だ。
デート前に匣を整備しようと瓜を出したらいつものように言うことを聞いてくれず、匣に戻ってくれなくなってしまったのだ。おかげで家を出たのは待ち合わせ時間の1時で、付いたのはその10分後だった。
「瓜が言うこと聞かなくて…」
「…クレープ。」
…は?クレープ?
こいつの言うことは唐突で電波だ。必死にクロームの言おうとしていることを考え、こんな結果に行き着いた。
「…つまり、遅れた詫びとしてクレープをおごれと?」
「うん」
やっぱりな…。
まあ遅れたオレが悪いわけだし、だめだなんて言えない。
しかたがないので、この間ハルが言っていたできたばかりのクレープ屋に行くことにした。
「ほら、行くぞ」
「…あの、」
目的地へ向かおうとしたとき声をかけられ、なんだよまだなんかあんのかよ、とクロームの方を向いた。すると、あいつはもじもじと両手をせわしなく動かし、零れそうなくらいの大きな瞳を伏せた。頬はほんの少し赤くなっている。
その姿が可愛いなとか思いながらクロームが口を開くのを待っていると、あいつはゆっくりとこう呟いた。
「寒い…」
ただ一言。だが、オレはクロームが言おうとしていることがすぐにわかった。
つまり、寒いから手を繋ぎだいのだろう。
だてにこいつと付き合っていない。最初は単語しか喋らないこいつの言いたいことがわからずにイライラしていたが、今は大分わかるようになってきた。
「…しゃあねえなあ…」
ぐいとクロームの手をひっぱり、指を絡める。あいつの手は氷のように冷たかった。だからオレは手を繋いだまま自分のコートのポケットへつっこむ。ポケットが大きくてよかった、なんて思いながら。
オレの横を歩くクロームをちらりと見てみると、あいつは繋いだ手と自分の足元を交互に見て、先ほどよりも頬を真っ赤にしていた。
そうこうしているうちに、噂のクレープ屋にたどり着く。時間が時間だったので、客はあまりいなかった。
レジの横に置いてあったメニューの立てかけを見ると、様々なクレープの数。いちごやらバナナやらサラダ系の甘くないやつもある。
どれにするんだと聞くと、クロームは軽くしゃがんで身体を立てかけと同じ高さにし、メニューをじっとみつめた。
大きな目をきょろきょろと動かして懸命に選んでいる。
オレは適当に目に入ったものを頼むことにした。
「オレはチョコバナナでいーや。お前は?」
「えっと…いちごチョコ」
「いちごチョコだな」
「…キャラメル」
…またきた。単語しか言わないこいつのクセ。…クセって言うのか?それとも口下手なだけか?
「いちごチョコかキャラメルで迷ってんのか?」
「うん…」
左手の指を唇に軽く当て、いちごチョコとキャラメルを交互に見比べて焦っているクローム。両方食べたいと言っても、きっと2つは食べきれないだろう。
はあ、とため息をつき、レジに立っているアルバイトらしき店員に注文した。
「すんません、いちごチョコとキャラメルひとつずつで」
オレの言葉を聞くなりあいつは「え」と心配そうな表情でオレを見つめた。
「どっちも食いたいんだろ?だったらお前のいちごチョコとオレのキャラメルを半分ずつ食えばいいじゃねえか」
「でも…隼人はチョコバナナ食べたかったんじゃ…」
オレはいーんだよ!と遠慮がちに上目でオレを見るクロームの頭を、安心するようにぽんぽんと叩いてやった。
「…ありがとう」
5分ほど近くにあったベンチに腰掛け待っていると、お待たせしましたと2つのクレープの包みを持った女の人にそれを手渡される。
できたてなのでほかほかと温かい。
「いただきます」
ぱくっといちごチョコクレープを頬張るクローム。表情が緩んだあたり、美味しかったのだろう。
「うまいか?」
「うん」
「キャラメルも食うか?」
「うん」
ほらよとクロームの前にキャラメルクレープを突き出した。
オレは普通にそのクレープを受け取り自分で食うものかと思っていた。のに、あいつはクレープを持ったオレの手に自分の手を軽く添え、そのままぱくりと噛みついた。
「な…!」
「美味しい」
ふわりとクロームが笑う。
「隼人も、食べる?」
くい、と今度はいちごチョコクレープをオレの口元へと突き出した。
「あーん」
「な…おま、こんなのどこで覚えて…」
「骸さまがよく私にやるから…」
あいつか…!!
骸のやつ…今度会ったらぜってえシメてやる!!
甘い甘い
20100224.
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甘々なのか…!?
こんなんで申し訳ないです…
オチもなんもない。
美月さま、リクありがとうございました!
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