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晴れた冬の日、わたしはまた並盛町に来ていた。だが今日はお腹がすいたから来ているわけではない。散歩に来ているのだ。わたしは冬の冷たい空気の中の太陽の温かさが好きだった。それに道に積もった雪が太陽に反射してきらきらと綺麗に光っているのを見て、散歩に出かけたくなったのだ。


黒曜ランドにいる犬に散歩に行ってくると告げると、もう帰ってこなくていいと言われてしまった。
どうしてあんなに毛嫌いされているのか理由はわからなかったが、そこまで気にもしなかった。


服は黒曜の制服しかなく、マフラーも手袋も持っていない。だからいつも通りのお腹と太腿を出した状態のまま寒い外に出た。


寒かったけど、雪はきらきら綺麗だしいい天気だったのでさほど気にならなかった。


てこてことどこへ行くわけでもなくただただ道を歩いていく。するとまた、あの人に会った。


「お」
「…嵐の、人」


名前は忘れたけど、同じ守護者だ。嵐の。すると嵐の人はとっさに何かを隠すように左手を後ろへ回し、どこかとまどったように「よう」と言った。

「なんだ、また腹すかしてんのか?」
「…違う」
「じゃあなんで並盛に来てんだよ」
「散歩」
「散歩だあ?」
「うん」


雪が太陽に反射してきらきらするのが好きだとか、太陽の温かさが好きなことを言うと、予想通り変わってるとののしられてしまった。


「お前、年中その格好なのかよ」
「だって、服、ない」


今度はビンボーだな、と鼻で笑われてしまった。事実だから仕方ないのだけど。


彼は隠していない右手でタバコを取り出し口にくわえると今度はライターを取り出してタバコに火をつけた。
そのタバコをふかしながらわたしに問いかける。


「…寒くねーのか?」
「え」


今まで散歩に夢中だったから不思議と寒さは感じなかった。が、今は異常なまでに寒さを感じる。短いスカートのせいで出ている膝は寒さのため真っ赤になっているし、お腹に至っては冷えすぎて痛い。


「…さむい…」


わたしは自分を抱きしめるように身体に手を回した。


「ばーか」


という声が上から聞こえたと同時に、首に柔らかいものが触れる。それは彼がさっきまでしていた真っ白でふわふわのマフラーだった。


「やるよ」
「え、でも…」
「さみーんだろ?」


嵐の人、顔が真っ赤。わたしと同じで寒いのかな。とりあえず好意を受け取ることにして、ありがとうと告げた。マフラーのおかげで、首があたたかい。


「なにしてたの?」
「あ、いや…」


ふと、彼が鞄を持っていないことに気づいた。今日は日曜日だし、今は朝の10時。鞄を持っていない時点で学校帰りではなさそうだったので何気なく質問してみると、彼はまたとまどったように言葉を濁す。


「…黒曜ランドに行こうと思ってたんだよ…」
「どうして?」
「……これ」


しばらくもじもじキョロキョロしたあと彼は、ん!と今までずっと後ろに隠していた左手を私の胸元に突き出した。
その手に握られていたものは、わたしの大好きな麦チョコ。


「これ…」
「やる」
「どうして?」
「…だ〜っ!!やるっつってんだから素直に受け取れ!!」


怒られちゃった。これ以上怒られたくなかったから、わたしは先ほどと同様にありがとう、と言って、紙袋にもビニール袋にも入っていないお店に売られたままの状態の麦チョコを受け取った。
そんなぽかんとしているわたしに彼からのトドメの一言。


「これ渡そうと思ってたんだよ!ばーか!!」

わたしって馬鹿だったんだ。
顔を真っ赤にして去っていく彼の後ろ姿を見ながら思った。
そして、もう一度もらった麦チョコをみてみる。ふと裏返すと、袋にメモみたいなものがテープで貼り付けてあった。



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 この前は傷の手当てしてくれて
 サ、サンキュー、な…。
 その礼ってわけじゃねーけど、
 これ…やるよ。
 アニマルヤローから、お前は麦チョコ
 好きだって聞いたからよ…。
 …別にわざわざ買ったわけじゃねーぞ!
 たまたま家にあっただけだからな!
 …ほんとだぞ!!
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傷の手当て、ってきっと、猫の引っかき傷に絆創膏を貼ってやったことだろう。


本当に、彼は不器用だと思う。


麦チョコを袋にも入れずに丸裸で持ってくるし、手紙だって便せんや封筒を使えばいいのにあからさまに千切った紙をテープで貼り付けてるし。


だけど、そんな不器用さが彼らしいと思うなんて、わたしどうにかしてるのかな。


なんて考えながらまた歩き出す。
バリ、と麦チョコの袋を開き、ちょこちょこつまみながら黒曜ランドへ帰ることにした。


彼から貰った麦チョコは、普段自分で買っているものより甘くて優しい味がした。










不器用




















20100109.

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