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Heartoys World
失くし物との再会
「あとはこれだな。来未、『人形の夢と目覚め』を弾くのに鍵盤の数はこれで足りてるか?」

「……えぇ足りてますよちゃんと…」

来未の息は相変わらず荒い。鍵盤押してなかったら出ないとは聞いてなかった彼女は相当苛立っているようだ。
そんな彼女に気付いているのかいないのか、主人は来未と反対の方向に向いた。

「すまんが蓬灯(ホウヒ)、彼を起こしてくれんかね」

蓬灯が振り向く時、銀色の髪が電気に当たって輝いていた。茶色いマフラーを首に緩めた形で巻いていて、黒いオーバーコートを着たその姿は元々長身である背を更に高く見せている。
来未が初めて対面した時に、彼女がその身長の半分を下さい、と唐突に思ってしまう程に。


「嫌ですよ。大体彼を起こすのがどれ程危険なことだか分かってんですか。あいつは睡眠を邪魔されるとかなり機嫌を損ねて、何するか分かんないんですよ?」

来未も確かに向こうの青年には些かの恐れをなしていた。いや、主人の方が安心出来ると思っているとなると些かではないが。
何しろ見た目からして既に恐ろしいのだ。服装にしても、雰囲気にしても。

そして、奥に眠る彼の瞳が何だか見てはならないような気がする。
その瞳には黒く塗り潰された、闇夜の世界が映されている気がして。

側にいる蓬灯さんは彼の目を何回も見ているのかな、来未は彼の顔色を伺った。
しかしすぐに蓬灯はじっと見つめる来未に気付く。

「? 嬢ちゃん、あんましこっち見んなよ〜、照れるだろっ何だか!」

「あっ、いえ…失礼しました……」

そして来未が直後に「ですから嬢ちゃん呼ばわりするのはやめて下さい」と言おうとしたら、蓬灯が彼女をしのぐ音量で叫んで邪魔された。


「あ―――っ!!??」


蓬灯がいきなりガラクタの山の一つに駆け出して、あさり出すと何かを取り出した。
それは掌に収まる大きさの丸い形、金属で出来た方位磁針のようだ。錆びているが赤い指針が一定の方向を再び指して止まる。

「主人、これ何処で見付けたんだよ!」

先程とは比べに比べられない感無量らしい笑顔で蓬灯は主人に問い詰める。
一方の主人は思い出しているのか手を顎に当てて斜め上を向いている。視線の先に考えられるのは蓬灯の銀色に輝く髪、もしくは切れそうになっている蛍光灯。

「あぁ、それはダイニングのテーブルに誰かが置き忘れていったから一旦預かって持ち主を探るつもりだったんだ。うっかりしてたなそういえば」

「……………」

主人の言葉に表情が固まる一同。ちなみに戒は元々あまり表情を変えない。

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