一時間半後…………。 「それで何故か泊めることになっちゃって…………」 「…………そりゃ大変だな」 「常識を知らないんですよ、あの鮫は!」 「鮫?」 「あだ名みたいなもんです」 ハア…………と溜め息を吐きながら本をめくる。紙面にはヨーロッパの様々な景色が描かれている。これはこれで創作意欲が湧くが…………今日はパス。本を棚に戻す。 満さんに語り出して早一時間。私はスクアーロとの出逢いからの出来事を事細かに話した。言ってから気づいたけど…………結構スクアーロの常識はずれな行動に私は苛ついていたらしい。あらビックリ。 あの鮫と出会ってまだ一日しか過ごしていない私たち。こうも苛立つのはなぜだろうか。 「ハルヒちゃんの毒舌もさることながらその女の子、活発と言うか………随分行動派なんだなあ。どこぞの姪を思い浮かばせる」 満さんも私の憤りに少し戸惑いながらもキチンと聞いてくれる。 「…………女の子?あの鮫は男ですよ?」 「…………は?」 キョトンと向かい合う満さんと私。 「?だから…………」 「…………と言うことはなんだい、ハルヒちゃん。君はよく知りもしない出会ってばかりの男性を家に居候…………!」 「あ、いえ。確かに知り合ってはばかりですけど」 すごい剣幕で私に詰め寄る満さん。その顔は真剣そのもので持っていた本を危うく放り投げてしまいそうになるほど。一応それも商品です、満さん。 でも言い方は不味かったかもしれないとあとから反省。深い意味は全くないのだが。 「ハルヒちゃん、あれほど昔から悪い男に引っ掛かってはいけませんと言ってきたのに…………。血こそ繋がってなくともおじさん、ハルヒちゃんをちっちゃい頃から我が子のように…………」 「悪い男に引っ掛かった覚えもありませんし恋愛経験はなくとも必要最低限の男を見る目は持ち合わせているつもりです、満さん。それにあいつの身元、性格、その他諸々は勿論知ってます」 「う…………これもまた久し振りのノンブレス理論攻撃。でもいい歳した男女が同じ屋根の下って言うのは…………」 「いい歳って言われても…………あっちもいい歳ですよ?」 「え、何歳」 「えーと…………(十年後だから)32?」 「え…………まさかのおじさん趣味?」 「アホですか。しかもそいつ外国人」 「…………なんかそれ聞いて安心したよ」 「そりゃあ良かった。って言うか元々恋愛感情なんて持ち合わせてすらないですから」 十歳前後も離れて国籍も違う。 勿論これが偏見であると言われても否定はしないし出来ない。しかしまさか自分がこんな体験するとは夢にも思わないだろう。 我ながら考えて違和感ありまくりだ。 「だがなぁ………何で結局泊めようなんて思っちゃったんだ?」 訳がわからない…………と言うように満さんは首をかしげる。 「元々ハルヒちゃんはあまりそういうことに関わらないようにしていただろう?いくら向こうが強引に入ってきたからって…………いくらでも断ろうと思えばできるんだ」 「まあそこなんですよね…………自分でも不思議でならないんですけど」 改めて振り返る。 今までは必要最低限に人と関わらないようにしてきた私。と言うか基本的無関心を貫き通してきたこの人生でこんな風に自分が男を泊めてやるなんて考えたこともなかった。まあ漫画のキャラクターだからと言えばそれだけでも済むのかもしれないが結局は………… 「同情…………ですか、ね」 「また漠然とした理由だね」 「だってそれしかないんで」 今のところそれでいいんじゃないか。そう思ったり思わなかったり。それ以外に理由なんて思い付かないしそうでも言わないとなんでか本当に分からないし。 私はふと自分の腕時計を見る。針はそろそろ予定の時刻を回ろうとしていた。 「げ…………そろそろ時間だわ」 「この選んだ本はどうする?」 「えーっと…………この三冊だけ買います」 「まいど」 満さんは私に時間がないことに気をつかって手際よくスピーディーに会計を済ましてくれた。ちょっと値は張ったが…………どうにか経費で落ちたりしてくれないだろうか? 「じゃ、気を付けて」 「今日はありがとうございました。お陰で良い本も選べたし愚痴ってすっきり!」 「はは!こんなことでよかったら、またいつでもおいで」 「はい」 私はレジで手を降ってくれている満さんに軽く会釈すると、急いでドアノブを捻った。ドアは行きと同じようにベルを鳴らしてきれいな音をたてた。 …………この時、スクアーロとの約束の時間からすでに十分経過。 頼りになる人、待ち続ける鮫 (やっぱスクアーロ怒ってるかな…………?) [*前へ][次へ#] |