鮫とデパート
「スクアーロ、次よ」
目的地につくアナウンスが電車のなかに流れる。家からここまで30分ぐらい掛かったので、なかなかの距離だ。
「やっとかぁ」
「ええ。でも疲れるのはきっと今からだけど。荷物持ち、よろしくね」
「ケッ」
プシュー、と自動ドアが開いた。隙間に気を付けながら降りていく。丸越デパートは目の先だった。
デパートまでの一直線の道を二人で並んで歩いていくと、何気にスクアーロが道路側にいるのは偶然だろうか?
「ね、スクアーロ」
「なんだぁ?」
「…………お願いだから囲まれないでね」
「?」
スクアーロが意味が分からないと言うように首をかしげる。
…………あんた、来たときも囲まれていたんだから少しは自覚しなさいよ。
しかし、私の心配が筋違いと分かったのは店に入ってからだった。
*****
店にはいると、あらゆる店と言う店が目にはいる。雑貨屋に服屋さん。文具店に書店…………目を留める暇がない。
「ほお…………日本のデパートっつーのはこんなに騒がしいものなんだなぁ」
「まあもうすぐイベントが増える時期だし。色々と頑張ってんのよ」
今はと言うと丁度師走。しかも下旬。もうすぐリア充と言われる人たち達が浮かれるイベントやみんなが揃いに揃って餅をたべたりする時期だ。店内は主に赤で彩られている。
「あー、やっぱりカップルも多いわねえー…ってことでここから別行動で」
「!?なんだぁ今の棒読みは。嫌なやつ思い出したぞぉ!」
「あ、フラン?いいねー、フラン。可愛いじゃないの」
「どこがだ」
「棒読み似合う人とか初めて見たもの。…じゃ、私向こう行くから。2時間後にここで落ち合いましょ」
「ちょっと待て」
店内に足を進めていく私の服のフードを掴んだかと思うと自分のほうに引き寄せていくスクアーロ。正直苦しい。マジで苦しい。
「げほっ……ちょ、引き留めるならもっと安全な方法をとってよ」
「てめえが人の話聞かねえからだろぉ」
「お金なら渡したでしょ?」
「そうじゃねえ」
するとスクアーロはさっきまで開いていた口をパクッと閉じる。
一方私は引っ張られた反動で気管が締め付けられ苦しい思いをしたため不機嫌度が上がる。そこ、短気とか言うなよ。これでも毎日牛乳飲んでんだから。
「何よ?」
思ったより低く刺々しい声が出た。出した後しまったと口を閉じるがもう遅い。
スクアーロはその声から私の機嫌を察したのかゆっくりと口を開いた。
「服って何を選べばいい」
「はあ?そんくらい自分のセンスでどうにかしなさいよ。そんだけなら私行くわ」
何を言い出すかと思えばそんなこと。
私はバサリと言い捨てると回れ右をしてせかせかと歩き出す。勿論今度は窒息死防止にフードをきっちりと掴んで。
後ろで「どうなっても知らねえぞぉ!」とかなんとかでかい声で聞こえた気がするけど無視無視。服選びでどうすればどうなんのよ。
「あ、お金服代でそれ以上払わないから!」
くるっと後ろを向いてそれだけ叫ぶ。
さて。私は自分の仕事を終わらせますか。
やっとうっとうしい図体をした奴と視線を逃れた私は軽い足取りでこの辺りでも一位二位を争う大きさの本屋へ向かった。そこの定員とはそれなりの付き合いなので目的のものを買いつつ立ち話に花を咲かせるのも良い。
うん。久し振りに熱く語ろう。
そう考えるとちょっと沈んでいた心も浮かんでくるような気がする。
…………満(みつ)さんいるかな。
鮫とデパート
(人混みで窒息しないことを祈ろう)
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