鮫とのお約束
その一、暴れることなかれ。
その一、棲むからには家事をするべし。
その一、剣を持ち出すことなかれ。よって修行も許可制とすることを定める。
その一、外出も許可制なり。
その一、家主の執筆中は静寂を心がけるべし。これ重要事項。
その一、他人とは出来るだけ顔を会わせないこと(出版社関係は特に接触を禁ずる)
以上を守れないもの、即刻立ち去るべし!
*****
「………以上が秋月家六カ条デス」
「デス、じゃねえ」
ペコッ
「あいたっ」
私が書いた六カ条の紙を丸めて叩いてくるスクアーロ。音は変だが…………うまく丸まっていたせいか、地味に痛い。(そんなものでヴァリアクオリティ使うなよ)
「何すんの」
「何すんのじゃねえぞぉ!一体なんなんだぁ、これは」
「だから秋月家六カ条…………」
「そう言うことじゃねぇぞぉ!」
ビシッと丸めた紙を広げて私の前につきだす。紙は私の顔の数センチ前で止まった。
「他のはまだ分かる。分かるが……なんだぁ?『外出は許可制』?『他人との接触禁止』?知るか、んなことぉ!」
「何いってんの、空想上の人物のくせして。初めて私がスクアーロを見つけたときはそこまで大事にならなかったから良かったけど、スクアーロは元々こっちには居ない人物なよ?アイドルとかよりもっとたちが悪いの。騒がれれば良いってもんじゃないの」
「あ゛あ?」
「アイドルはキャーキャー騒がれて握手してサインしてすればいいんだろうけど…………スクアーロはそうもいかないでしょ?バレたら即アウト。レッドカードよ」
面倒事は嫌よ、私。
そう言えば渋々と黙るスクアーロ。
そりゃ私だって縛り付けんのは嫌だけど。
「…………もし、スクアーロってバレたらどうなるかわかんないんだし。それに必ず出てはダメってわけじゃないし。我慢して」
「だが…………」
「じゃ、そうと決まったら出掛けるわよ」
「!?俺はまだ賛同してねえぞぉ!」
「いったじゃん。ほら、決定!」
さっさと準備するよ、と、手元のカフェオレを飲み下す。下の方に砂糖が溜まっていて口の中にじゃりっと音がした。
…………甘。
目の前ではスクアーロが「なんか納得出来ねぇ!」とかなんとか言ってたけど聞こえないフリ。それでも否定はしてこないんだから良いってことなんだよ、きっと。
私は何故か唸っているスクアーロを横目でちらっと見て、ふふっと微笑んだ。
その後にスクアーロがこちらを見ていたような気もしたが、私は気づいていなかった。
(スクアーロ。行く前にちゃんと顔洗っていった方がいいわよ)
(あ゛あ?何でだぁ?)
(顔、紙のインクつけちゃったから)
(!?)
****
「電車だなぁ」
「…………電車ねぇ」
私達はスクアーロの生活必需品を買うため、電車で丸越デパートに向かっていた。
丸越デパートは『医療品から家具までなんでも』をキャッチフレーズとした大型モールである。ここの辺りでは最大の規模を誇る。
本当は『丸越ショッピングセンターモール』と言う正式な名前があるのだが、私達はそれを何故か『丸越デパート』と呼ばせていただいている。
近頃ではあまりにも正式名称の方が疎遠となってきているため、『丸越デパート』に改名した方がいいんじゃないだろうか?と言う話まで上がってきているらしい。
そんなデパートに向かっている中、私とスクアーロはずっとさっきの会話を続けていた。
「…………電車」
「もういいって。何が言いたいの」
何で電車乗ってずっとその言葉聞いてなきゃいけないのよ。
さっきから同じことばっかり聞いて同じことばっかり答えてると、流石に苛立ちが湧いてくる。一体なんだって言うんだ。
「そんなに電車珍しいの?」
「いや…………会話が続かねぇから…………」
「ぷっ」
「な、なんだぁ!てめえは全然しゃべんねぇし気まずいんだぁ!」
「!るっさい…………っ」
電車に咄嗟に出したスクアーロの言葉が響き渡る。電車に乗ってた人の視線が一気にこちらに突き刺さった。
私は咄嗟にスクアーロの頭を叩く。
「ここ電車の中なんだから。声落として」
「う゛ぉい…………」
気まずそうに視線を落とすスクアーロ。
私はそっと回りに視線を移した。
明らかに怒りを含んだ目で見てくる老人やサラリーマン達。
無関心そうに、だた大きい声がしたからこちらを向いている主婦。
あとは…………面白いものを見るかのようにこちらを見る子供とそれを諭すように叱る親。…………そして目にハートマークをつけてスクアーロを見ている(ように見える)女子高生を中心とする若者。思いっきりいい見せ物状態だ。
…………この変装、逆効果だったな。
スクアーロは今、あまりにも目立つ制服を脱ぎ、長袖のTシャツとジーンズを履かせている。今の季節、それだけでは寒そうだったので、私が学生の部活生の頃によく用いていたブカブカのジャージを貸した。
一見合わない格好の筈なのに着こなしてしまうのがこの美形達。おまけにスクアーロの髪は少しでも目立たないようにとポニーテールにして帽子を被せてみたのだが…………この回りの反応からして失敗だったようだ。
いっそフードでも被せ、マスクでもしたら、と考えても…………駄目だ。確実に警察に連れていかれる。
怪しさ満点の服に早変わりだ。
これは丸越に着いてからの回りの反応に気疲れしそうだ…………とハルヒはスクアーロに気付かれないようにそっとため息をついた。
鮫とのお約束
(スクアーロの髪って綺麗な銀髪だけど…………下手したら白髪に見えない?)
(見えねぇ)
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