鮫を敬う奴はいない。…………と思う
チュン…………チュン…………。
外から入ってくる朝日と小鳥の鳴き声で私の意識は奥ぞこから引っ張りあげられる。
私は再び閉じようとする瞼を必死に抉じ開け、頭を働かせた。
頭の寝癖を増やすように掻き回す。
…………あー、鳥の鳴き声で起きるって結構いいかも。今度ネタに使ってみよ…………。
考えるポイントがずれてるな……とちょっとずつ覚めていく頭で理解しながら時計に目をやる。ああ、もう八時回ってるじゃないか。
「えーと…………ん、あれ?」
あれはなんだ?
ぼやける視界の中、壁際の人らしき物体をみる…………銀髪が朝日で光っているように見える。綺麗だなと素直に思った。
小鳥の鳴き声で起きて、起きたら自室には銀髪のイケメンさん。うん。これで一本描けそう。今度担当に相談…………
「……あ゙あ?てめえは朝っぱらから何一人でぶつくさいってんだぁ?気色悪ぃ」
「…………お早う、スクアーロ。これは作家(私)の悲しき習性だから気にしないで」
「そうかぁ」
多分私だけの悲しき習性を知り合ったばかりの男に一日でバラす。ああ、嘆かわしや。
作家になってからと言うもの常日頃、物語の事ばかりを考えるようになってしまった。それは寝てるときも然り、食べてるときも然り、お風呂に入っているときも然り………頭の休まるときはない。そのせいか最近、考えていることが脳を通らず直接口に出してしまうようになった。今までは一人だったから良かったものの……最初から何やってんだか。
私は頭をボリボリと掻いて背骨を伸ばしポキポキと鳴らしてるスクアーロに問いかける。
「スクアーロ、洗面所使う?」
「いや、いい」
「そう。じゃそこの掛け布団直しておいて」
「あ゙あ」
ちっとも眠そうではないスクアーロは腰をゆっくりとあげる。そして長い手足を使って器用に掛け布団を畳み始めた。
昨日は唐突だったので、スクアーロには床で掛け布団だけ与えて雑魚寝をしてもらった。
流石にそれは辛いんじゃ…………と思ったが、スクアーロは任務とかでこういう雑魚寝のような寝方に慣れているらしい。寧ろこっちの方がいいと言い切られてしまえばこっちも反論しようがないので私は有り難くベットで寝させてもらった。今日は布団も含めて身の回りのものを買いにいくべきだな。
洗面所に赴いた私は鏡で自分の顔を覗く。結構我ながらヒドイ顔だ。朝だからか寝起きだからか…………顔がむくんでいる。
紙を近くにあったゴムで束ねて冷たい水で顔を洗い…………目もスッキリ覚めたところで軽く髪を整える。こんだけいきなり自分の素を出してしまったのだから明日はそこまで気にしないでおこう。
頬を軽く叩き気合い入れをした私は部屋へと向かった。
****
「…………よし」
ペンがきゅっと軽い音を立てて止まる。
私の正面からスクアーロが覗き込んできた。
スクアーロの片手は、私が手間を込めて作ったトースト(バター付き)を流し込む為の珈琲が握られている。
「なんだぁ、これ?」
「お約束みたいなものよ」
インクが乾かないうちに紙のはしっこを手に取り、前髪の鬱陶しいスクアーロの顔面に擦り付けるように渡す。紙は軽くくしゃっと音をたてただけで破れたりはしなかった。ナイス私の力加減。
「………てめえ「ハルヒ」……ハルヒ、もう少しましな渡し方が出来ねえのか?」
はらりと顔から落ちる紙を破れないよう優しい手つきでとるスクアーロ。青筋がたっているのはきっと気のせいじゃないんだろうな。
「失敬な。今のはあんたの髪が鬱陶しかったのよ。よく切る気になんないわね」
よしよし、ちゃんと私の名前呼んだね。ついでにちゃんと顔にインクもうまい具合に付いてくれたわ。
「お前………まだ若いだろぉ?」
「ピッチピチの21歳」
「…………日本では年上を敬うって聞いたことがあるんだが…………」
「鮫に対して敬う必要ってあんの?」
「鮫じゃねえっ!!」
「冗談」
今度はマジで叫びだすスクアーロ。
流石にイビりすぎたと思った私は「ごめんね」と謝った。スクアーロは少し目を見開いてこっちを見る。
「…………」
「…………何?」
何か変なこといったかしら?
ちょっと前の自分の言動を振り替えって考えてみるが…………思い当たることは何もない。眉を潜めてスクアーロを見ると、こっちを見ていたのに何故か逸らされた。
「何でもねえ」
そう言って。
鮫を敬うやつはいない。…………と思う
(私の思う鮫は惨めだからね)
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