隠し事
私の担当、篠木雄二(ササキユウジ)は私を見るなり、スクアーロにちっとも劣らない声を上げた。
「もー、遅いですよ梓川さん!どれだけ待たせれば…………って、ええ!?どうしたんですか、その足!!?」
「ちょっと、騒がしい…………」
迷惑そうに手で耳を塞ぐハルヒ。スクアーロの声を聞きなれている分、こっちの方がまだましと思える辺りが末期だ。
大声は大声。騒音には違いない。
「ちょっと実家に戻った時にやっちゃったの。見た目ほどひどくはないから安心してください」
「あ、そうなんですか?…………あー、これが手じゃなくて良かった」
「そんな馬鹿なことしません。上がって」
「お邪魔しまーす」
わー、梓川さん家久し振りだ。そう言って私の促すままに家の中に入っていく篠木。ノリがまるで子供みたいなのは気にしない。ついでにこいつが27と言うことも。
「…………?」
「どうかしました?」
「なんか……部屋の感じ、変わりました?」
「え?…………そんなこと無いと思うけど」
「ふーん、まいっか。それより梓川さん、これ!お土産です」
ハルヒの心臓が存在をここぞとばかりに主張するように、ドキリと跳ねた。
この部屋は以前に篠木が来てから、一度も模様替えと言う模様替えをしていない。出来るだけ変わらないように気を使っていたつもりだが、もしかしてスクアーロが来てから、なにかが原因で部屋の雰囲気が変わってしまったのかもしれない。自分で気づくことができないのが不便だ。篠木はそこまで気にしていないのが幸いした。
当の本人は、いつもの如く鞄を漁っていた。
「はい、どーぞ!」
「…………え?」
「ドラゴンフルーツです!勿論梓川さんなら知ってるでしょ?」
「いや…………知ってますけど」
「もう大変だったんですよ、これ探すの。丸ごとのを買うため」
だったら買うなよ。ハルヒは思わず心の中で突っ込んだ。
篠木のいつもの仕事用のビジネスバックより、一回りは大きいバック。漁っていた手を止めたかと思うと真っ赤に熟れたドラゴンフルーツと共に出てくる。ハルヒの部屋にドラゴンフルーツ………物凄く似合わない。
「結構ドラゴンフルーツって外国産が多いらしいんですけどなんとこれ、沖縄産なんです!」
「ふーん…………」
「あ、これ色が服についたら取れにくいらしいんで。気を付けてください」
「…………」
「何でもこの色、口紅とかに使われているらしいですよ」
「…………美味しいんですか?これ」
「さあ?僕はそんなに好きじゃないですね」
だったら買うなよ。絶対にこれは土産物に向いていないだろ。
しかも、見た目と反して美味しい、絶品だからお勧め!と言うのであればまだ許せるが、本人ですらそこまで勧めないものとなると余計にだ。
面倒事を嫌うハルヒは、色が服についたら取れにくいという言葉を聞いて、余計に食欲を失った。
「…………ま、取り敢えずありがとうございます」
「いえ、喜んでもらえると土産を買ってくる
かいがあるってもんです!」
「…………」
こいつの土産に私がいつ、喜んだというのか。ハルヒが社交辞令として浮かべていた笑みが、更に引きずった。
篠木の土産物でましだったものはこれまでひとつもない。スクアーロが来てから愛用している、「なんでやねん!」と書かれたハリセンがいい例だ(『鮫の気遣いと嫌がらせは紙一重』を参照)
今回の食べ物はいい方だ。腐れば捨てれるから。ハルヒの部屋にある、パリに行ってないのに買ってきたエッフェル塔の置物や、何故か野球のサインいりボール。触り心地がいいと勧められた変な模様のクッション。挙げ句の果てには出目金。あの、出目金。全部ウケを狙うにしても笑えない品物ばかりだった。
出目金を土産で渡す人なんて初めてみたわ。
お陰でその出目金は、とっても元気なマイペット。今日も元気にただ飯にありついて泳ぎまくっている。
「じゃあさっそく原稿、チェックしていきますね。どこにあるんですか?」
「あー私の部屋にまとめてプリントアウトして…………あ」
「じゃあちょっと失礼しまーす」
「ちょっと待った!!!!」
ヤバイ。ちょっとこれはヤバイ。
「えー、なんですか。汚れているだけなら気にしませんよ。今さらだし」
「えっと…………そうじゃなくて」
何であの部屋に置きっぱなしにしてしまったんだ、私。
今私の部屋にスクアーロがいることは、この担当以外承知のこと。そんな部屋に入られたら…………しかもそれが私の部屋なら当然のこと。ものすっごくまずいことになる。
私は慌てて自分の部屋の前に立ち憚った。
「じ、自分でとるから座っててください!」
「?その足じゃ大変でしょ。無理しないでください」
「平気ですから!」
「何をそんなに慌ててんですか?見られちゃいけないものでも?」
ありますとも。特大の美形銀髪外国人が。
「えっと…………そう、洗濯物とか部屋干ししっぱなしだったなって」
「おー、流石一人暮らし」
「そう、そうなんです。だからそん中に下着とかも…………あ」
「あー………それ、早く言ってくださいよ」
私の言葉に少し頬を赤らめて、引き下がってくれる篠木。しかし、ハルヒの窮地は自分の言葉によってまだ、逃れられていないままだった。
隠し事
(私の下着…………部屋に干しっぱなし……)
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