住み着いた鮫は知的なようです
「…………で、てめえは何者だ?」
「…………は?」
「俺もここで暮らすんだぁ。それぐらいのこと聞いたっていいだろ?」
「まだ許可出してねえっ!」
皆さんご機嫌よう。
只今うちに住み着こうとしているカス鮫は絶讚ゴーインクマイウエイ中です、はい。
って言うか何者かも知らない人の家に住み着こうとしてんですよ、この人。違った、鮫。
こっちからすれば、迷惑以外他のものでもないんですけれども。
呑気に私の差し出したお茶に「珈琲はねえのかぁ?」と文句をつけるカス鮫。
私はその態度に苛ついて、バンッと机を叩き付けてから上から目線に口を開く。
出してもらえるだけありがたいと思え。
私は珈琲より緑茶派なの!←
意外と手がヒリヒリと痛い。慣れないことはするもんじゃないな、と思った。でもその痛みと代償にスクアーロは軽くビクッと肩を揺らしたからよしとしよう。
「…………いい?スクアーロ。もうここまで来たらどうしようもないからこれも運命だと思ってあんたを養ってやる。養ってやろうじゃないの」
「お、お゙う…………」
漫画で見ていた姿より小さく見えてくる。
おうおうおう、怯んでくれてるじゃない。
「ただし!ここに泊まるからには勿論私の言うことに従ってもらうからね。あんたの出てたREBORN! は確かに好きだったし今でも新刊買ったりしてるけど!暗殺部隊とか関係なしに家事とかやってもらうから!」
ハマったのは昔じゃなかったのか、だって?
ええ、確かに全盛期は学生でしたよ。でも続きが気になるものは気になるの!
「いい年してまだそんなもん買って「うるさい」………家事なんてやったことねぇ」
「嫌でも覚えてもらう。そこら辺はヴァリアクオリティーで何とかしなさいよ」
「…………ゔおい」
スクアーロは一気に捲し立てた私の勢いに飲まれたのか軽く後ずさっている。ここに来たからには妥協なんて一切許さないんだから。
そして久々に怒鳴ったことが堪っていたものを吐き出すきっかけになったのか不本意ながらちょっとスッキリ。
…………最近締め切り近くて籠りっぱなしだったからな。
ふとそう思い、ゆっくりと腰を下ろした。
*****
「お前…………『梓川(アズサガワ)』って言うのか?」
「え?」
「梓川…………なんて読むんだぁ、これ」
スクアーロは私の視線から逃げるように、近くに放り出しておいた仕事関係の封筒に手を伸ばした。大事なものでも見られてはいけないものでもなかったので私は口を出さない。
「ああ。それ『紫苑(しおん)』って読むんだけど、私は『しえん』って呼んでんの。あとそれ、私の戸籍上の名前じゃないわよ」
「『梓川紫苑(アズサガワシエン)』…………本名じゃねえのか?」
「うん。私の本名は秋月ハルヒよ、スペルビ・スクアーロ」
冗談混じりにフルネームを言ってみる。
するとスクアーロは軽く眉を潜めた。
「…………本に載ってるのは分かっちゃいるが………………数時間前は他人だった奴から名前を言われんのは違和感あるぞぉ」
「そう?」
「あ゙あ。…………にしてもお前、偽名使ってるってことは何かヤバイ仕事でも…………」
「誰がするかそんなこと。しかも偽名って言うな、偽名って」
「あだっ!」
怒りに任せて銀髪の綺麗な頭に一発。
振り返ってみると暗殺者相手に何やってんだって頭の片隅で思ったけど…………あくまでも頭の片隅でだから思い付かなかったことにしておく。
「『梓川紫苑』は私の筆名。所謂ペンネームね。私、物書きやってるから」
あ、物書きって分かる?とちょっとバカにしたように聞いてみると「馬鹿にすんな!」と思いっきり睨まれてしまった。
知らなかったらそれでいびろうと思ったのに。残念。
「あれだろぉ?要するに作家とかそんなとこだろ?」
「正解」
「じゃああれも全部…………」
そう言ってスクアーロが指を指すのは私の本棚。背表紙に私の筆名がのった本がいくつか綺麗に並んである。
「あーそう。私が描いたの。…………なんか一冊だす度に見本用とかいって必ず送ってくんのよね、担当が」
私はボリボリと頭を掻く。
自分でかいた本を納すほど恥ずかしいものはないと私は何度も担当に言っている。なのにいつもいつもご丁寧に持ってきてくれるのだ。私は何度も推敲してるから読み返す気にもならないと言うのに。
「ほぉ…………」
「…………何よ」
「後で読んでみてもいいかぁ?」
興味深そうに棚をガン見するスクアーロ。
一冊手にとってぱらぱら捲ったりしては戻すことを繰り返していた。
「…………私の見てないところで見てね。それに剣士の話なんて描いてないわよ?」
「別に剣以外の物でも読むぞぉ、俺は」
「あら意外」
住み着いた鮫は知的なようです
(鮫の主人公なんてのも描いてないわよ?)
(お前、俺の事なにか勘違いしてるだろぉ)
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