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鮫、暴走中







パンッ…………!!!




「!!」




軽く弾けるような音に、スクアーロは身を固める。一瞬で頭に横切ったのは『敵襲』の二文字。いつでも対応できるように頭の中を戦闘体制へと切り替えた。しかし、疑問に思う所もあった。

銃声…………銃声とは、こんなに軽いものだったか。




「?何構えてんの、スクアーロ」


「…………」


「あ、まさか銃声と勘違いしたとか?」


「…………」




何やってんだ。思わずそう怒鳴りたくなった。横のハルヒを見てみれば、音の正体はすぐに分かった。ハルヒは手と手を顔の前の辺りで合掌するように合わせている。…………どうやら、手を叩いた音と銃声を聞き間違えたらしい。
たった二週間で銃声を聞き分けられなくなったことに(かなり)失望しつつ、スクアーロはハルヒに向けて口を開いた。




「なんのつもりだあ!!」


「空気の浄化」


「…………は?」


「いやね。なんか柏手って淀んだ気を浄化する的な話を聞いたことがある気がしてさ。この重っ苦しい空気を浄化しようと思って」


「重っ苦しいって…………今そんなときじゃねえだろぉ!」


「終わりよ、終わり。もう私からの話は全部話したし」


「…………!」


「私、同情とか要らないから。たかがこんなことで悲劇のヒロインぶるつもりもないし」




包帯の巻かれた足を庇いながら、ひょいっとベンチから立ち上がるハルヒ。その様子からして、本当に話を切り上げるつもりらしい。




「なんだ、悲劇のヒロインぶるっつーのは」


「どうもこうもないわ。親の不倫なんて、ざらにある話でしょ。しかもこのご時世、離婚なんて珍しくない」


「何が言いてえ」


「私より不幸な人は沢山居るって言っているの。私より大きな身体的、精神的傷を負っている人なんてごまんと居るわ。こんなの珍しくないの。…………あんた、今にも泣きそうな顔してるでしょ?」


「なっ…………」




そんな顔、今自分がしているのか。




「同情なんて要らない。私はごまんといる人たちの中の一人、慰め不要!私はこのままの状態で十分。はい、これで話は終わり」


「おい、勝手に…………」


「終わりよ!ほら、さっさと帰る」


「!…………ハルヒ!」




ゆっくり足を引きずって、それでも早く自分から逃れようとしているハルヒに手を伸ばした。手がハルヒに追い付くのは簡単だった。自分の大きくごつい右手は、見事にハルヒの細い手首を掴む。そうすると、ハルヒの肩は小さく跳ね上がった。ハルヒの、小さく儚いその姿。

…………抱き締めたい。無理矢理掻き寄せて、抱き締めて、その唇を貪りたい。

自然とそう思った。心の奥の自分の野生の部分が、これを弾みにひょっこり顔を出す。その事が、無性に悲しくなった。…………こんなときに、こんなことしか考えることができない自分が、情けなく無様に感じた。

スクアーロはそんな感情を必死に抑えにおさえ、がむしゃらにハルヒの持っていたコーヒーに手を伸ばした。ハルヒは驚いてこちらの方を向くがそんなことは気にせじと、そのまま自分の手に収まったコーヒーを思いっきり呷る。喉に、苦いものが通っていった。
さっきまで甘いイチゴミルクを飲んでいたので余計に苦く感じた。だけど今の自分には、ちょうどいい。




「ちょ…………何やって」


「ゔおおおおおおぉい!!!!!」


「!?」




キーン。言葉で表現するにはそれがちょうどいい。今までにないくらい、耳鳴りが凄いことになった。それも突然の事だったので耳を塞ぐ暇もなく、もろに反響が響く。




「な、なっ…………!?」


「いいか、ハルヒ!お前に話せって言ったのは俺だぁ!」


「!?それが、なんだって言うの!?」


「話し終わって勝手に切り上げるのは反則じゃねえのか?大人しく戻れぇ!」

「はあ?」


「聞かないなら担いででも戻らせるぞぉ!」


「分かった、分かったから!!」




一度目の大音量の『ゔおおおぉい!』で鼓膜が破れなかったことが不思議な位なのに、こともあろうことかスクアーロは私の耳の近くで何度も大きな声を出す。鳥達もビックリして、遠くへ飛び立ってしまった。

おかしいだろ、この男の肺活量。そしてこんな声を出せる喉。

あれなのだろうか?職業柄、体を鍛えなくてはいけなくて、その訓練のせいで腹筋が鍛えられ、あの声が出せるほどの腹筋が出来上がったのだろうか。あの声は、そういう仕組みなのだろうか?そうなると、ベル達もこんなの出せるのか?
………いや、スクアーロだけだろうな。
日頃からデカイ、デカイと言いつつも。こういうときの声の音量を聞くと、あれは本当に元から大きいんだと言うことが分かる。
これ以上足のせいで上手く歩けない私の傍で大声を出されてしまっては敵わないと、渋々だがゆっくりと方向転換をした。




「…………!」




振り向いたときに見えた、スクアーロの顔がいつになく真剣なものになっていた。

なんだかんだ言って、私はスクアーロに弱いのかもしれない。ここぞと言うときは最終的にはスクアーロに譲ってしまう。

…………スクアーロの真剣な表情を見ると、ふとそんな気が起こってしまった。













、暴走中


(もしかしたら私、スクアーロのあの目に弱いのかもしれない)





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あきゅろす。
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