鮫達の仁義なき戦い、終幕
竹刀の重なり、ぶつかり、弾く音。
父とスクアーロの試合が始まり、それらの音しか道場には響いていない気がする。
今に至るまで何度も聞いた乾いた竹の音は既に耳に馴染み、むしろ心地いいものになってきていた。
「…………っ!」
「…………チッ」
父の顔に焦りが見え隠れする。年のせいか疲れのせいか、動きが段々鈍くなっていっている。今はスクアーロの突きを何とか受け流す、それぐらいにしか出来ないようだった。
「…………なかなか粘るじゃねえかぁ、ゔおおい!!」
「まだまだ兄ちゃんみたいな若いもんに譲る気は無いもんでな」
「威勢の良いことだぁ…………だが、これ以上続くのも面倒臭ぇ。次の一太刀で決めるぞぉ!!」
「おう、望むところでい」
その言葉を合図にするように、道場が静まり返った。隣から、喉がなる音が聞こえる。そちらのほうを振り向けば、なんと門下生全員。小学生低学年から高校生まで皆、父の試合姿を凝視するように見入っていた。
逸くん曰く、父がここまでする試合は珍しいという。
…………そうか、この姿を見てなかったのは私だけでは無かったのか。
ちょっと嬉しく思えた。
能ある鷹は爪を隠す。
父はまさにこの諺の『鷹』なんだろうな。そう思った。スクアーロに関しては…………凄いの一言のみ。これ以上のコメントは、出てこない。
「…………行くぞ」
「…………」
睨み合いが続く。
ここまで静かに息を飲んで正視していたため、この場面を見るには集中力も削がれ、精神的にキツかった。
私に関しては、正座をするために折り曲げていた足に、感覚がなくなってきている。きっと、立ったときは物凄く無様な姿を晒すことになるんだろう。
二人は睨みつけあう。
その時間がいつまで続いたのだろう?その時間が余りにも長く続いたため、二人が行動に移したときは、ほんとに一瞬の様に感じた。
二つの影は交わり離れ、竹刀の軽い音が大きく響き渡った。そして、
私のすぐ近くの壁に、竹刀が突き刺さるような音がした。
ガコンッ…………!
「…………ハルヒ姉っ!?」
何故だろう。体が引っ張られる。
何故か逸くんが、私の服の袖を引っ張って、そこから私を動かそうとしていた。
何で、どうしたの?決着は?
口に出そうと思った瞬間、理由がわかった。
「痛…………っ!?」
足に、物凄い衝撃が走る。今までに体験したことのないような痛みだった。
あまりの痛さに何事かと足を見てみると、そこには父の大事にしているという証の真剣を覆うショーウィンドウのようなものが私の足の上に落ちてきていた。壁に真剣を覆うように被っていたはずが、今の振動で落ちてきてしまったらしい。
しかも最悪なことに。
「ハルヒっ!!!!」
私の上に、真剣そのものが落ちてきていた。
今の瞬間ほど父を恨んだことも、自分の『捨てるべき』という考えも正しかったと認識した事はない。
剣の数は数本。父が母に怒られた数だけあるので、片手では足りない。ましてや、とても避けきれる数ではない。
それに私の体は、恐怖に支配されていた。
万事休す。
さようなら、私の短き人生。
「ハルヒ…………!」
耐えられぬであろう衝撃に備えるため、私は目を閉じた…………。
ドスッ…………。
「…………ゔおい」
「…………?」
痛みなんて、無かった。
目を開いたときに見えたのは、上からスクアーロが案じるように私を見る姿と、
私の顔の隣にちらつく、床に刺さった真剣だった。
鮫の仁義なき戦い、終幕
(…………私を覗き込むスクアーロが、少しだけかっこよく見えて、胸の奥が鳴ったのは誰にも内緒)
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