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飼っている鮫が暴れだしました








乾いた竹の音が道場に響き渡る。
私にとって、それが最悪な子守唄の様に聞こえたのはきっと気のせいではない。




「う…………」

「ちっ…………この程度で終わりかぁ!だらしねぇ」

「やり過ぎ。あんたが凄すぎんのよ、スクアーロ」

「誉め言葉として受け取っておく」




そういって竹刀を一度振って肩に乗せるスクアーロ。刀を振るその癖は、向こうの世界でついたのだろう。きっと刀についた返り血を払う仕草だったんだと思う。
こんなところでスクアーロはやはりマフィアなんだと思った。




「あ…………ありえん…………」

「…………全て急所、狙ってましたね」




父と逸は思わず、今までに見たこともないその実力に圧倒されて言葉を溢す。
床に踞っている人達。どの人も、疲れから踞っている訳ではなく、普通に剣道をやっていたら味わうことのできないであろう衝撃と痛みによって地面とにらめっこをしていた。
いくら竹刀と言えど、防具をしていなかったら骨の一本や二本ぐらい、軽くいってたのかもしれない。

対してスクアーロと言えば、一人であの人数を一気に相手にした挙げ句、防具なしという普通じゃ考えられない暴挙を意図も簡単に流してしまった。勿論、疲れた様子すらない。




「ふん…………まあジャッポーネのカスで言ったらこんなもんかぁ。…………ゔおい、師範さんよぉ。今度はあんたが相手になってくれるんだよなぁ?」




スクアーロはたった今倒した敵?から視線を父へと移す。口の両端が上がっている。今すぐにでも殺りたいというような顔だ。
門下生達はその笑みを見て、背筋に何やら冷たいものを覚える。悪魔とか、鬼神とか、今の自分の語彙力では到底表せれない何かがその男の後ろに見えた気がした。

その後ろで、私の頭の中で何かが切れた。




「ざけんなっ」



パコッ…………



「ゔおっ…………っ!?」

「!?」

「やりすぎって言ってんでしょうが!」




聞こえてなかった?とスクアーロに向かって怒りを露にするハルヒ。隠すつもりもないらしい。
そんなハルヒの姿を見て、その場にいたものは言葉を失った。
自分達が到底実力に敵わなかった相手に、この人(ハルヒ)は、スリッパを投げ付けた…………。




「ゔおおい!いきなり何すんだぁ!」

「一言、言ってやる」

「あ゙?」

「『大人気ない』」

「う"…………」

「相手は中学生とか……年下ばっかよ?自分の実力分かって相手にしてんの?」

「ちょ、ちょっと待て!ちゃんと俺は加減したぞぉ!打ち込んだ直後に止めて衝撃を少なくしてだなぁ…………」

「だから自分の実力理解しろ。スクアーロは打ち込んだ時点でア・ウ・ト!大体手加減で急所狙うやつがいるの?!」

「なっ…………!?だ、だが」

「まだ言う?なら、私の持ちうる全ての語彙を使って理論漬けにして返すけど。なんなら一戦交えてみる?」

「…………いや、いい」




ギブアップ、と言うように片手で額を隠し、もう片手を上げる。今のスクアーロならそこにありさえすれば、白旗でも上げるだろう。それほどの威圧感が今のハルヒにはあった。あな恐ろしや。

私はそんなスクアーロを見て、ハア、となんとも言えない気持ちでため息をついた。
私は作家で、人並み…………いや、それよりかは語彙力を持ち合わせているという自負がある。なので言葉でスクアーロを捩じ伏せることなんて造作もないことなのだが…………できれば言う前に自分で気付いてもらえないだろうか。そう切実に思った。




「…………ハルヒ姉さん」

「…………ん?何」




私のスクアーロに対する喝で変に静まり返ってしまった道場に、逸の低い声がやけに響く。ふと気になって逸の横顔を見てみると、逸は何やら決心を固く決めたような顔になってスクアーロの方を見ていた。
スクアーロもその視線に気づき、答えようと逸の目を見据える。
それによってまるで二人の間には、漫画でよくあるような火花を散らしていた様にも見えた。まさかこんな場面を生きて見ようとは。




「俺、あの…………えっと、鮫さん?と手合わせ、してもいいですか」

「俺は鮫じゃねぇぞぉ!!!!」

「は?逸君だってさっきの試合、見ていたでしょう?」

「見てました。でもそれを承知でお願いしたいんです」




無謀だ。

言葉で片付けるならこれだけで十分。理由を足そうと思えば、『力の差がありすぎる』『体格差がありすぎる』など色々浮かんでくる。が、逸の目は簡単に引いてくれそうにない。
私は逸君が下手なことをして怪我を負う前に、本人から断ってもらおうと目線を送ったが…………。




「ほぉ…………俺に挑むなんざ若造にしちゃ良い度胸じゃねぇか!」




…………目線を送る相手を間違えた。
本人はいたってヤル気だ。私の止める隙がないじゃないか。




「…………父さん」

「…………仕方ないだろう、本人たちがやりたがっているなら俺には止められんぞ」

「ならば決まりだぁ」

「ですね」




二人の口角が上がる。
私も父も、もう止められないと悟った。




「じゃ…しょうがない。父さんも入ってよ」

「!?」

「んで、スクアーロは片手で利き手じゃない方でやってあげて」

「別にいいが…………」

「ハルヒ姉さん!?」

「やるならそれは守ってね。じゃないとスクアーロは引きずって帰らせます」

「…………でも」

「いっとくけどあいつ、あそこまでハンデ付けても強いわよ」




私は不敵な笑みを浮かべていった。
私が余計なお節介を出していることは重々承知の上。逸君にとってはそんなハンデつけら
れるなんて不本意だろう。
でも、それでもスクアーロが強いと言うのは紛れもない事実。逸君にはこれで我慢してもらおう。逸くんに、怪我なんて負わせられないのだから。

私はしばらく何か言いたげな逸とずっと目を見つめあっていた。言いたいことはわかる。でもこれは譲れなかった。












飼っているが暴れだしました





(手加減と言うものを知らないのかしら)


(おい…………父さんが何気に捲き込まれているのは無視なのか?)

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