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男(オス)同士の熱い友情と浪漫








久しく見ていなかった道場。
雨や風に晒されて、風化し始めているような古い看板。
そして道場の奥からふわりと微かに流れてくる板の香り。

…………とうとう私はここに足を踏み入れてしまった。




「遂に来てしまった…………」

「ゔおおい、ここがお前の実家か!」

「…………」




ドスッ…………。

私はスクアーロの背中に一発拳を捻り込む。来たくもないところに来た上、そんなにはしゃがれればこっちのテンションも駄々下がりってもんだ。少し空気読め、KY。
…………それでもあまり効き目がないんだから悲しいのだけれど。




「ひ…………もう嫌だ、こんな道場っ!」

「!…………なんだぁ?」




急にスクアーロの正面から、私より少し身長の高めの男が涙目で突っ込んでいった。私の目が可笑しくなっていないのならその人、道場から出ていった。

…………まだやってんだ、父さん。

ズキズキとさっきから痛む頭を押さえる。
私は色々と思いを巡らせながら、ドアの取手に手をかけた。ああ。入りたくない。




「…………」




ドアを横に引く前に後ろを振り返る。




「…………」

「なんだぁ?」

「…………いい?どんなものを見ても驚かないで。私に合わせて」

「あ゙あ?それどういう「!!その声は…………ハルヒか!?」…………」

「げ…………」




中からドスドスと、板の軋む音と足音がここまで伝わってくる。
条件反射で思わずドアを閉めようと思うと…………向こうからあり得ないほどの力が掛かった。




「ハルヒ、久し振りだ!何でお前家に帰ってこなんだ!」

「はは…………父さん、ただいま…………」




目の前で豪快に笑う人物。
成人した私を未だ子供扱いするような人物。
…………私の父の登場です。



*****



「…………」

「…………?(スクアーロ、何で無言なのよ…………)」




道場前。
久しく我が父と再会した私は、久し振りの父のテンションに押され気味となっていた。もっぱら話すのは一方的に父なので、私は適当に相槌を打つだけ。しかも心のなかでは早く中入れろ、とか寒いとかそんなことしか考えていない。
考えられないことに、私達は中に入れてもらえてはいなかった。




「あれ?ハルヒ。後ろの男って……」

「(ああ、やっと気づいた)ああ、彼は…」

「!まさか…………ハルヒ。お前は二十歳過ぎたばかりなんだ、焦ること………」

「ちげーし。むしろ焦ってんの父さんだし」




ゲスッ…………。




「!?……ハルヒ、脛は無いだろう、脛は」

「あら、つい」




父さんの勘違いに思わず足が出ちゃったわ。




「彼は…………えっと「スペルビ・スクアーロだぁ」…………で、私の友人の友人。イタリア人で日本の武術に興味があると」

「おお、入門生か!歓迎するぞ!」

「入門生…………?」

「どっちかと言うと道場破り、に近いわね」

「おお!現代にもそんな骨のある奴が居たとは!ささっ、早く中へ!」

「…………良いのかぁ、そんなこと言って」

「思いっきりやりたいんならね。それに実際そんなもんでしょ」




私は少し戸惑う様な様子のスクアーロを一瞥すると、薦められたスクアーロより先に道場の中に入っていく。スクアーロもそれを見て、私の後を追ってきた。




「「「「やあああ!!!」」」」

「もっと声出せ!」

「…………やってるわね」




道場に足を踏み入れた途端、耳に入ってくる怒声に私は耳を塞ぐ。…………ここの道場は声を出すことが基本。出さずに稽古に励むと、直ぐに追い出されてしまう。所謂、スパルタ式に近いものがある。さっきの人もここのやり方についていけなかったのだろう。

子供の頃は毎日この怒声を聞いていたので大分慣れてしまっていたのだが…………しばらく一人に慣れてしまっていたせいか、かなり耳鳴りがする。




「うわ、父さんまだこの真剣コレクション飾ってんの?」

「まだ、とはなんだ。大切なコレクションなんだぞ」

「相変わらず悪趣味な…………」




門下生の稽古の次に目を移したのは、道場の端に映ったショーウィンドウ…………もどき。壁にかけてある真剣の上に被せるように作ってある。勿論扉も作られているので取り出し可能となっている。




「盗難にあったり、悪さする奴に盗られる前に売っちゃえばってあれほど言ったのに」

「父さんが若い頃からコツコツと集めたんだ、そう簡単には売らせん。…………それにそうならないようにこのガラスまでつけたんだからな!」

「無駄遣い、ね」




嬉しそうに語る父を見て私は更に溜め息。この父は自分の趣味のためならば体を張ってまでやり遂げるところが子供じみている。

…………どうせ使う機会なんてないのに。

そう私が思って言っても聞きやしない。男の浪漫だそうだ。




「そうだぁ!剣は男のロマンであり魂!!この気持ちは女には理解できねえ!!」

「うわ、いつの間に」

「さっきから後ろにいたぞぉ」




ズカズカと私の前に進み出ていくスクアーロ。ショーウィンドウもどきの前にピタッと止まったかと思うと、今度はそのショーウィンドウもどきに手を当て、品定めをするかのようにじっくりと見いだしてった。




「ほお…………結構いい太刀が揃ってんじゃねぇか!!特にこいつは良い」




そういってスクアーロの指し示した太刀は、私の父が気に入っていると騒いでいたものだった。私から見たらどれが良いのかどころか、刀の区別すらつかない。




「兄ちゃん見る目あるな…………それは俺の一番のお気に入りだ!」

「あ゙あ?これくらい見定めんの造作もねぇ!刀は剣士の誇りだぁ!!」

「全くその通りだ!最近の者ときたらこの浪漫すらわかんねえ奴らがゴロゴロしてっからな。…………兄ちゃん!気に入ったぞ!」



ガシッ!



拳と拳の重なる音が道場に鳴り響いた。
…………男と男の友情の完成だ。




(門下生の人々はそれを何事かと言うように遠目で見てましたとさ)



勿論私はそれを冷めた目で見ましたとも。
















男(オス)同士の熱い友情と浪漫





(間近で見たら暑苦しいだけ)


(浪漫なんてただの幻想、理想よ)

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