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神様は鮫の味方だとさ







「…………ねえ、嘘でしょ?スクアーロ」

「嘘じゃねぇ」

「嘘って言ってよ」

「言っても良いがどっちにしろ行くぞぉ」

「勘弁して…………」




秋月ハルヒ、21才。ただいま自転車に乗りながら、スクアーロに父の事を言ったことを後悔しております。



*****


時は数十分前…………。
皆さんはスクアーロの言った、



「物足りねぇというか張り合いが出ねえ」



という言葉を覚えていますでしょうか?
このカス鮫、物足りないなら足せば良い。張り合いが無いなら出せば良いと言う考えの持ち主のようで。




「ゔおおい!今からハルヒん家の道場に乗り込むぞぉ!」

「はぁ!?」

「このままじゃなんかやりきれねぇからなぁ。ここまできたならもっと手応えのある奴とやりてぇ!」

「駄目、絶対に駄目。その考えに辿り着くあんたの頭があり得ない!」

「ゔおおい!?」




私はブンブンと首を大きく振る。スクアーロを家になんて連れていけない。ってか帰りたくない。そんなの絶対にダメなんだから。




「あ゙あ?何がそんなに駄目なんだぁ」

「とにかく駄目ったら駄目なの!私、実家に帰りたくないの!

「!」




ひときわ張り上げた声を、腹の底から出す。
自分でも吃驚した。大声を張り上げるなんてここ最近していなかったのに、こんなに出るものなのかと。私でそうなのだから、スクアーロに関してはかなり驚いているのかもしれない。そう思って視線をチラリと向けてみたが…………あまり変わっていない。まさかまだ、父親への反抗等と思っているのだろうか?父親と顔を会わせたくがないが故、拒否をしていると思っているのだろうか?


…………そうではない。


家に帰ったら、あの人に会わなきゃいけなくなる。私は早くあの人から離れたくて、独り暮らしを選んだんだ。今さら家に戻るなんて。ましてや顔を合わせる羽目になんてなったら…………。

私が家にいくことを必死に首を縦に振って否定しているというのに、スクアーロは私にあまり構わずに自転車に跨がった。


…………2週間。
スクアーロと出会い、私の家で養うようになってからそれだけの月日が流れていた。
だから私も、スクアーロの事をそれなりに理解したつもりでいる。スクアーロは…………いざとなると、言い出したらきかない性格だ。日頃の生活で結構まともに家事をしたり我儘を言わない分、自分がこうと決めたらそれはもう意固地になってでも譲らない。そりゃもう物凄く頑なに。
私としては、普段我儘を言われないので、こう言うときは押され気味となる。
なんと面倒な性格をしていることか。




「どうせてめえの帰りたくないは、思春期によくある、親父さんを嫌がったりするやつだろぉ?何年帰ってねえ?」

「…………約2年半」

「そんだけ帰ってなきゃ十分だぁ。たまには顔を出してやれ」

「…………顔なんて出さなくても、「おら、早く乗りやがれ!置いていくぞぉ!」」

「え、ちょ待ってよ!」




そういってスクアーロは、本当に私を置いていこうとするもんだから焦った。急いで後ろに腰掛け、スクアーロの服を掴む。
…………スクアーロはゆっくりとペダルをこぎ始めた。

風がまた、私の頬を行きと同じように触れていく。行きと違うのは…………この自然に囲まれているせいか、森の匂いが物凄くする事だろう。まるで、私達が自然の薫りを背負って持っていっているような感じだと思った。




「…………ねえ。本当にいくの?」

「あ゙あ」

「やめてよ」

「断る」




坂道を下る間、ずっとこんな言葉の応酬をしていた。




「…………親父さんの流派はなんだぁ?」




応酬の途中で、スクアーロはこんなことを言った。




「…………苑心(えんしん)流」

「聞かねぇ名だなぁ」

「父さんが作った流派よ。知らなくて当然」




もっとも、あの道場をあのまま継ぐ人がいなければ一代で終わっちゃうけどね。

ハルヒは遠い目をして言った。




「…………継ぐ奴いねえのか」

「門下生にいい人いたら、その人に任せるんじゃないの?私は詳しいこと知らないし。…………それより」




私は前を見て自転車をこいでいるスクアーロの髪を軽く引っ張った。……これが結構顔に当たってくすぐったい。




「あだっ!ゔおおい!?」

「道場の場所も知らないでどうやって行くつもり?」

「案内しろ!」

「するか」




誰が行かせたくないところに案内するんだ。
私がそう言うと、スクアーロがいきなり急ブレーキを掛けてきた。車体が前のめりになる。そこで初めてかなりのスピードを出していたことに気が付いた。




「ちょっと!危ないじゃない!」

「ちょっくら道場の場所聞いてくるぜぇ」

「…………は?」




言うが早く、スクアーロは自転車から降り、私を置いて何処かへいってしまった。
スクアーロの銀髪は、遠目から見てもはっきりと分かる。それを私はポカーンと見つめた。ゆらゆらと揺れる髪は、やはり女性を敵に回してしまいそうなほど綺麗に揺れていた。




「なに考えてんの、あいつ…………」




待つこと十分…………。
スクアーロは無表情に、むしろこちらを見て、驚いた表情になって戻ってきた。
軽く鋭い目を、見開かしている。




「ハルヒ、まだいたのかぁ」

「は!?いきなりどっか行ってた癖に、何いってんのよ!」




寒い中、こんなところにおいてけぼりにされて。訳が分からずとにかく待ってみたらこれだ。一体スクアーロは何を考えてるんだか。

大体道場の名前も知らないはずなのに人に聞けるものか。




「道場の場所、分かったぞぉ!」

「…………マジか」




有り得ねえだろう、普通。


にやにやと笑うスクアーロ。このときの私は、超直感なんてものを持っていなくても悟った。
…………この瞬間、ハルヒはどうあがこうと道場にいく羽目になると、そして不本意ながら渋々と腹を括った。













神様はの味方だとさ



(どうしてこうなるのかな…………)

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