鮫を飼うには多少の強引さも
「い…………色々と疲れた…………」
「あんなに動き回るからだぁ」
「元はと言えばあんたのせいでしょ………」
丸越デパート飲食街の一角。
安くて比較的入りやすいカフェに私達は向かい合って腰を下ろした。
あれから…………デパートの男性服と言う男性服を売っている所を片っ端からはしごで服を選んだ。勿論主導権はこちらが担った。
こいつにはとても任せられない。
「………そんなスタイルいいのにセンスないって…………壊滅的ね」
「俺の職業には、そんなもん要らねえ」
「まあそうだけど…………」
だからといって、あれは違う気がする。
私は静かに、手元のカフェオレの入ったカップを慎重にもち、溢さないように気を使いながら口に含んだ。
…………実は私は気付いている。
スクアーロが最初に服を選んだ店は、アウトレット商品ばかり置いていた事に。それも当然、その店はアウトレットストアだった。
一回、返品して返されたお金がかなり少なかったから気になっていたのだ。
どうやらスクアーロは少なからず、遠慮と言うか気遣っていると言うか…………つまりそう言うことらしい。
それにしてもあのセンスはないと思うけど。
あの壊滅的なセンスには、もしかしたらお金を気にして安いものばかりを選んだのかもしれないと、その時ふと思った。
…………この程度も買えないほど、貯金が無いない訳ではないのに。
「スクアーロ。ケーキは良かったの?」
私の手元にあるケーキ。なのにスクアーロの所にはない。スクアーロが要らないなど甘いものが苦手だなどいって頼まなかった。
「ああ」
「…………そう」
ほら、また気にしてる。
私はその事が気に入らない。
私は作家として活動し出して…………そんなに年月は経っていない。
短いわけでもないが、どちらかと言うとまだ新人、に分類されるだろう。
でも小説は昔から書いてきた。だからなのか人の心情や変化には聡いと言われてきた。
なのに。
「…………」
私は…………あまり、スクアーロの心が分からない気がする。と言うか何を考えているのか全く予想できない。
それを試しにスクアーロに尋ねると、何故か「アホか」と返された。
「簡単に心を読まれるような奴だったら、ヴァリアーの作戦隊長なんざ務まる筈がねぇだろぉ」
「そりゃ、そうだけど…………」
「読まれたらそれこそ作戦隊長の名折れだぁ。そんなの俺のプライドが赦さねぇ!」
そう言って珈琲の入ったカップの縁に口を付けるスクアーロ。
「…………じゃ、気い使ってるように見えたのは気のせいか」
「…………あ゙あ?」
「いや、なんかわざわざやっすーい服買ってきたり、ケーキを遠慮したり。あれ、気使ってるように見えたのよね」
「!んなっ…………」
「あ。その反応やっぱりそうなんだ」
作戦隊長の名折れね、と私は笑った。
スクアーロと言えば、飲みかけた珈琲を、変なところに流し込んだのか、噎せて涙目になっている。
何度か咳払いをしたあと、スクアーロはこちらを向き直った。
「…………なぜそう思ったぁ」
「そりゃ見れば誰でも分かるわ。服を返品して返されたお金が少なかったから、さっきの店を確認すれば安物しか置いてなかったし、ケーキを要らないって言ったわりには結構チラチラ見てたし」
「…………お前、探偵か何かか?」
「いえ、しがない物書きです」
フフ…………と私は笑う。なんかうまくスクアーロを出し抜いたような感じで楽しい。
「…………」
「…………別に」
スクアーロのなんとも言えない顔が、こちらを向く。あまり見たことのない表情だった。
「別に…気ぃなんて使わなくてもいいから」
「あ゙?」
「あのね…………。私今、専業作家なの。この意味分かる?」
「どういうことだ?」
「兼業しなくていいってことはこの職業でそれなりに稼いでるの。生計成り立ってんの。それに私は無駄遣いはあまりしない」
「…………お゙う」
「イコール男一人養うくらいどうってことなし。イコールお金で気に病む必要もなし!」
「別に気ぃ使ってなんて…………」
「ってことで今日は寿司食いに行くぞ!」
「ゔおおおい!人の話を聞けぇ!!」
これを機会にか、スクアーロは変に気を使うことは無くなりましたとさ。
鮫 を飼うには多少の強引さも
(ゔおおおい!ハルヒ!寿司が回ってるぞぉ!)
(スクアーロ…………はしゃぎすぎよ………)
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