雲珠桜は夏に彩る 残された者達08 「……なーんてなっ」 「え?」 急に背中の熱が離れる。 後ろを振り返ればそこには山本の姿は無くて……慌てて探すと、隣に笑いながら並んでいた。 「ははっ、ビックリしたか?ドッキリ!」 「……え、これドッキリだったの?」 そう聞けば笑顔で頷く山本。 私はそれを聞いて笑う。 「なんだ、ビックリしたじゃん!思わず本気にしてたよ」 別に深い意味無いよね。 そりゃあそうだ。山本もそのつもりでやっていたんだから。 私はさっきまで考えていたことを思い返すと……何をバカなこと考えていたんだろうと羞恥で顔が朱色に染まった。 自惚れもいいところだ、きっと。 そんな私を見て山本はいつも通りの笑顔を向けてくれた。ちょっと頬が染まっているのは夕暮れの時間帯のせいなのだろう、きっと。 そのまま二人で歩き続けていると、目の前に分かれ道が見えてきた。 「そんじゃ俺、こっちだからさ」 「あれ?家こっちじゃ……」 「いや、バッティングセンターにでも寄ろうと思ってな」 「そっか」 私は思わずしかめ面になる顔を必死に保つ。 ……きっとこの後、山本も未来に行ってしまうんだ。 幸いか、山本はそんな私に気付かず、後ろに抱えていたバットを楽しそうに持ち上げる。 「………じゃ、私帰るね」 「おう、じゃあな!」 「じゃあね。無茶しすぎんなよ!」 「ははっ、おう!」 そしてそのまま私達は別れた。 ふと、振り向いた時に見た山本の背はどこか大きくて……逞しく見えた。 次の日。 私は学校に行った。 昨日先生を振り切って山本を追いかけていったので、質問攻めに遭うのを覚悟してのことだったが…… その日に先生に責められるようなことはされなかった。 生徒……友達にも何かと言われたが、思っていた通りにはならなかった。 山本武と笹川京子が行方不明。 今や行方が知れた私のことなんかより、昨日まで普通に登校をしていた者達がいなくなった、そちらの話題の方が学校中を占めていた。 風の噂では緑中の三浦ハルやランボ、イーピンも行方不明とのこと。しばらく並盛は、少年少女の行方について紙面を騒がせていた。 そしてそれを聞いて私は改めて確信した。 未来編は始まっているのだと。私は……物語に交じれない存在なのだと。 そして……物語に交じれない者として、やるべきことは、今回でもう見えていた。 [*前へ][次へ#] |