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雲珠桜は夏に彩る
刺客は誰の背に06








私の胸の中は、信じられないと言う気持ちと安心で占められていた。





「イーピン…………無事でよかった!ツナ達も探してたんだよ!」


「沢田さんがですか?…………って言うかここ、十年前ですよね?」





キョロキョロと綺麗に結われた髪を左右に揺らしながらイーピンは辺りを見渡す。
改めて大人になったイーピンは、やはり子供の方を知っているだけに違和感を感じるが、イーピンの雰囲気はそのままだった。逆にこんなに綺麗になっちゃって…………と羨ましくも感じた。





「うん。あ、ツナ達って言うのは十年後…………24?才の方のツナね。ランボも物凄く心配してたよ」


「ランボがですか?」


「うん」






私は今持っている絆創膏を一つ、ポッケから取り出す。取り敢えずここでは何にも出来ないので、頬に出来ている掠り傷だけでも応急措置だ。
イーピンは少し照れたようにお礼を言った。





「んもう、ランボったら…………心配するくらいなら私の出番がなくなってしまうくらい強くなってくれたらいいのに…………」


「そこはランボだもの、しょうがないよ。…………それより本当に傷のほうは大丈夫?」





私は極力目立たないよう努力しているイーピンの傷に目をやる。服の上なので良く分からないが、イーピンの顔色からしてよいとは言えないはず。
事実、ランボもあんなに心配してたし…………。
私は顔をしかめる。





「いやだ、ユカ姉さん!大丈夫ですからそんな顔しないで下さい!私が雲雀さんに怒られちゃう!」


「?」





慌てて手を前につきだして横に振るイーピン。その後はほら!と腕を回したりして大丈夫なことをアピールしている。
なぜここで雲雀さん…………?






「雲雀さんがどうかしたの?」


「えっ……ああそうか。こっちは………」


「?」






うーん複雑だー、と唸るイーピン。
雲雀さんが何なのか気になる所だが今は……





「取り敢えずイーピン。イーピンが見つかったことをツナに言わなくちゃいけないから…………この荷物どうしよ」


「あ、私持ちます!」


「いいよ。これくらい」





私はやんわりと申し入れを断る。流石に怪我人にこんなもの持たせられない。

私達は家に戻る道のりをゆっくり獄寺の家の方向に向ける。イーピンも私の横に並んで着いてきてくれた。

流石にこの時間は夕日が顔に照り付ける。
それが眩しくて目を細めると、夕日がより幻想的に見えているような気がした。





「この夕日はやっぱり変わらないなぁ」


「そうなの?」


「はい!いつでもこんなに真っ赤で綺麗なままです!」





ちらっとイーピンの横顔を見ると、イーピンも目を細めている。でもその目は夕日を慈しむような…………どこか寂しさが宿っているような目だった。きっと思うことがあるのだろう。




…………今、なら。





私は未来の皆が来て、ずっと思っていたことを今なら、聞けるような気がした。





「…………ねえ、イーピン」


「何ですか?」





イーピンは可愛い笑顔をこちらに向ける。それを見て、本当に聞くべきか少し揺れたが…………多分、チャンスは今だけだ。





「あのさ。私、十年後ってどうなってる?」


「ユカ姉さんの十年後ですか?」


「うん」





私はゆっくり頷いた。
イーピンは少し大きな目をぱちくりさせたが…………あまり表情に変化が見られない。それはある意味私を安心させた。

でも、イーピンの口から出た言葉は意外なものだった。





「ユカ姉さんは確か…………どこか遠いところに引っ越したって聞きました」


「引っ越した…………?」


「はい。でも私が小さい頃でしたから…………だからさっきも本人か合ってるかちょっと心配だったんですよね」





あははーと頭をかきながら笑うイーピン。


…………引っ越した。私が?









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