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雲珠桜は夏に彩る
そして季節は巡りくる09







ユカからの手紙にはそんなことが書いてあった。自分が聞きたかった言葉。聞きたくなかった言葉。それらが全部、その手紙には書いてあった。
そして雲雀はその手紙をユカの自室で開いていた。



自分がここまで女々しかっただなんて、誰が想像できただろう?



彼女の部屋はあれから少しもいじっていない。そしてたまに、雲雀はユカがいないという事実に耐え切れなくなった時に此処に訪れていた。

ここに来るたび、彼女が確かに居たこと。そしていなくなったことを思い知る。それだけの物がここにはあった。
そしていつもそう思うたび、目から何かが零れ落ちるのだ。雲雀はそれの正体をいつも知らないまま、拭ってしまっていた。





「っ………ハア、」





一通り手紙を読み終えた雲雀はベットの上へ仰向きに倒れこむ。制服がしわになるとかそんなこと考えもしなかった。倒れこんで見えるのはいつもユカが見ていたであろう何の変哲もない白い天井。そこに思い浮かべるのは彼女の顔。

雲雀がベットの傍にある机に置いた手紙を読むのは決して初めてではなかった。何度も何度も読んだせいか、すでに手紙には折り癖がついてしまってしまっている。

私は確かに帰る決意はしてたけど、雲雀さんと別れる覚悟までしてなんかない!

雲雀さんが幸せになることを願っています。たとえその隣にいるのが私でなかったとしても。

ユカは帰る前。そして手紙にもそんな事を残していった。だけれど、たとえ雲雀は二度とユカと会うことがなかったとしても、あの関係を崩す気は更々なかった。むしろ何故ユカは帰ることが破綻に繋がるのだろうと思ったくらいだ。だってそうだ、自分は彼女以外に心を許す気も動かされる気にもならないのだから。彼女しかいないとずっと思っていたのだから。………そして、もし彼女が自分から離れることがあるのなら、自分は一生一人を貫くであろうとも、中学生さながらに感じていた。

世俗的に言うのであればユカは運命の相手だったのであろう、きっと。
他人との干渉を好まない自分が唯一気を許せる相手。それがユカだ。なのにユカは、何を自分以上にいい人がいるだなんてほざいているのだろうか。何を前を向きたいだなんて、自分以外の男を見ようとしているのだろうか。

………もちろん、彼女がそんなつもりでそんな事を書いたのではないと、雲雀自身も分かっていた。二度と会うことがない相手を思っていても辛いのは自分。お互いに新しい相手を見つけた方がこれからの為にいいと、それが最善の方法だと。
彼女はそれを自分が素直に鵜呑みにするなんて思ったのだろうか?





「ずっと言ってきたじゃないか…………離さないって、」





好き、だなんて言葉を手紙に残すなんて、狡すぎる。

ユカは分かっていないのだ。自分の存在がどれだけ雲雀に影響を与えているのか。それだけユカの言動が雲雀を惑わせているのか。
きっと自分は…………彼女が認識しているより、ずっと大切に思っているのだ。





「……諦めないよ、僕は」





たとえ何年かかったとしても。
手紙に書いていること。初めて雲雀は、ユカの言うことを聞けそうにないなと思った。

窓際の机に置いてあった手紙は、まるでこれからの雲雀を嘲笑うかのように風に吹かれ、はためいていた。









******

次がラストです。




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