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雲珠桜は夏に彩る
そして季節は巡りくる07







過去に帰って、また普通に学校に通い出して。………生活は、あまり変わることはなかった。

最初は勿論ユカちゃんがいないことに違和感があったし、その事で落ち込むことはあったけれど、いないものはいない。それはどうしようもない事実で、徐々にでも受け入れていくしかなかった。

ユカちゃんは学校では、親の事情による転校ということに収まった。彼女がこちらでは親がいないということはほとんどの人が知らなかったし、いきなり消えたことも転校があまりにも唐突な話だったため、皆にあいさつすることが叶わなかったと担任が説明すれば、皆が納得したような顔になった。
数日でいつもの日常が教室にも流れた。
ただ、そうなると誰が俺達や………雲雀さんの歯止め役となるのだと教師達の間では嘆かれていたようだ。

普段の生活でも、ユカちゃんがいなくなってもいつものように獄寺君やランボは何かと騒ぎを起こしている気がするし、山本はそれに笑っている。京子ちゃんやハルもクロームと仲が良くなって三人でケーキ屋めぐりでもしようという話になっているという。
ただ、やはり少し物足りない気はするし、この後俺達が帰ってくるときに起こした地震のせいで転校生がやってきて、何かとまた騒がしくなる生活があるのだけれど、取り敢えず今は未来のようなむちゃくちゃな日常じゃなくてごくごく普通の日常が営まれていた。
だけれど、それは「俺達」の話だった。





「…………雲雀さん、大丈夫なのかな」


「十代目………あいつの事です、今頃いつもみたく群れを咬み殺してますって!十代目が気に病むことはありません!」  


「うん………でも」





やはり気になるものは気になる。
雲雀さんは帰ってきてから、まず最初に弥風さんに詰め寄られていた。彼女にも勿論未来の記憶が渡っていて、俺達が帰ってくるまでずっと気にしていたらしい。…………そして、雲雀さんの傍らにユカちゃんがいないことを見るなり、彼女は雲雀さんを拳で殴りかかっていった。





「っ!!」


「っ………」


「!雲雀さんっ………」


「ちょっと恭弥!どういう事!?なんであんたの隣にユカがいないのよ!!………まさか、守れなかったとかほざくんじゃないでしょうね!?」





雲雀さんは避けなかった。彼ならあの至近距離でも避けれたはずなのに、あえて避けずその一発を甘んじて受け取っていた。





「…………違う」


「!じゃあなんで!!」


「ユカは…………帰ったよ」





ふざけた答えならもう一発入れるつもりだったのだろう。弥風さんは聞き返すと同時に再び拳を握り振りかぶっていたが、雲雀さんが絞り出したその言葉に血の気を抜かれたようにゆっくりと下ろした。
彼女はユカの詳しい事は知らないはずだった。だけど、その一言で何か全てを理解したらしい。

雲雀さんはそんな弥風さんを一瞥すると、ここにもう用はないというようにあっという間に去って行った。彼は自分たちにとうとう堂々と涙を見せることはなかった。ユカが帰った時は……あの時は、どうやら自分が泣いていることに気づいていないようだったから。

それからの雲雀さんは荒れていた。いや、そうは言っても表面上はそんなに変わっていなかった。
いつも通りに風紀委員の雑務をこなし、群れを咬み殺し、並盛の頂点に君臨する。
だけどどこか投げやりなような、行き場のない想いを仕事に回しているような、そんな感じだった。だから荒れているというのが正しい。

そして俺たちはそんな雲雀さんを見て胸が締め付けられるような思いに駆られていたが、それでも自分達の力では彼をどうしようもすることはできなかった。………きっとこの問題を解決できるのは、時間か、あるいはユカ本人だけなのだから。

そんな時。その日の放課後だった。京子ちゃんとハルが、教室の前で待っていた。





「?ハル、またうちの制服着て何やって………」


「そんな事はどうでもいいんです、ツナさん!」


「そんな事………」


「……ツナ君。あのね、」


「?」


「私達、どうしても雲雀さんに届けなきゃいけないものがあるの」





京子ちゃん達はいつも以上に真剣な目をしていた。それこそ、あの未来のボンゴレ基地にて、ストライキを起こすと自分達に伝えた時のような。
真剣さはすぐに伝わった。だから、ついてきてほしいと言われれば断る理由なんて思いつかなかった。

放課後家でなんとかクリアしようと思っていたゲームの事なんかすぐに頭の隅に追いやって、ゆっくりと首を縦に振った。





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