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雲珠桜は夏に彩る
埋れていた、事実19





ドォーンッ!!



「チッ、いよいよ戦いも盛り上がってきているようだな………」


「………」





夜明けとともに始まった戦いは、日が登るほど爆音を轟かせる。その勢いは、熱気がここまで届くかのようだった。





「………皆さん、大丈夫でしょうか」


「大丈夫だよ、きっと。皆強いんだ」





不安がるユニにツナは心配することないと声をかける。が、そんなツナの表情も浮かばない。それはただ不安に不安を駆けるだけで、空気はさらに重くなるばかりだ。
それを少しでも軽くしようと頑張っていたのはほかでもない、ユカだった。





「なんで顔してんの、ツナ。大丈夫って言うならもっと明るい顔で言わないと。ユニがもっと不安がっちゃう」


「え………あ、そんな顔してた?俺」


「うん。……もっと自信持って。皆は絶対に勝つんだからさ」


「う、うん……!」





不思議だ。この場にいる人は全員がそう思った。記憶のない時のユカを知ってしまったからだろうか?………あの時のユカにこんな強さはなかった。
仲間を見送る度、危険な戦場に送りだす度に不安そうな瞳を灯していたユカはここにはいない。記憶はあるのとないとではここまで変わってくるのだろうかと不思議がった。
………なんでユカちゃんはここまで強く居れるんだろう。
それを訊ねればユカは、苦笑に似た笑みを漏らした。





「………分かっているから」


「え、」


「皆を信じてる………って言ったら聞こえはいいかもしれないけど、私はただ怖い事を考えたくないだけだよ。都合のいい方に持っていきたいだけ。信じるだけじゃ、不安までは拭えないでしょ?」


「?」


「負けることは考えない。皆は必ず勝つから、心配はない………なんてさ」


「な、なるほど」





そんな考え方があったのか。ツナは目からうろこを落としたような気分になった。
自分はユカの言う通りネガティブな事ばかりを考えて………それならいっそ、ユカみたいな考えからが良いのかもしれない。少なくとも今みたいにふさぎ込んで周りの空気を重くするようなことはなくなるはずだから。

そんなツナを見て、ユカはやはり心の中で苦笑を洩らす。あんな事を言ったが、やはりこの中で一番負けを恐れているのは私だ。それを上手く隠しているだけ。





「雲雀さんはどうするの?行くんでしょ?」


「………え?」


「皆の所。行きたそうな顔してるけど」





ユカは戦場を指しているのは、ツナにも分かった。それをユカはあまりにもあっさりと言いのける。





「………行くよ」


「!!」





今回は雲雀さんも、行かないと突っぱねることはしなかった。
びっくりだ。ユカがまるで戦いに行く事を促すような事を言う事も、雲雀がそれをあっさりと承諾する事も。





「いいんですか?だって前の時は」


「ここにいれば安心なんでしょ?それに………気付いたんだ」


「え?」


「向かってくる敵からユカを守るより、僕が懐に飛び込んで咬み殺した方が早い」


「!!」





そう言う雲雀さんの顔には、獲物を前にした時のようなあの「笑み」を浮かべていた。………恐ろしいが、味方にすると頼もしい。まさにそんな感じの笑みで、ツナの背中には冷たい物が流れた。
ユカはそんな笑顔でさえ、笑って飛ばす。





「それでこそ、雲雀さん」
「だけどユカ。僕が戻ってくるまでにまた、勝手に居なくなったりしないでよ。今度は行くらユカでも咬み殺すから」


「は、はーい………」


「勝手な行動もだよ」





雲雀さんは次々に愛情とも呼べるような言えないような注意をくどくど告げていく。ユカは何度も前例があり、その上先ほど自分の身勝手な行動のせいで危険な目にあいかけていたため、苦笑いを溢しつつ、でもちゃんと聞いていた。ここまで言われるような事をしでかしているユカもユカだが。
………ここまでしゃべる雲雀さんも、初めてみた。
ツナまでもつられて苦笑を洩らすと、自分以外にもそんな音を聞いた。どうやら京子ちゃんもハルも大人フウ太も………いや、ここにいる皆が同じことを思っていたみたいだ。





「本当に大人しくしていなよ」


「ちょ………分かってるってば、くどいよ!さっさと敵倒してきちゃって!」


「…分かったよ」





行ってくる。雲雀さんはまだ何か言いたそうな表情を浮かべていたが、それらを飲み込んでコクリと首を縦に振った。そしてその言葉と同時にうっすらと笑いを浮かべて、自分の顔をユカの顔に近づけた。他の人から見ても、ちゃんと目視出来る出来事だった。





「………これでやってないとか、言わせないから」





二人の初めてのキスよりも、少し長めのキス。少しでも長くして、ユカに実感でも持たせたかったのだろうか?

あ、意外とさっきの事根に持ってたんだなと自分が冷静に考える事が出来たのは、二人のキスを見てしまうのが初めてじゃないからかもしれない。
あれ、この場合は見てもしょうがないよね。不可抗力だよね。






「………(えーっと、)」





それにしてもあれだ。知っている者同士のキス、と言うのはなんだか複雑だ。なんだかジッと見つめるのも目に毒だし、悪い気がしてふっと顔を横に逸らす。目に入った京子ちゃん達もやっぱり見てしまったみたいで、頬を上気させてる姿がかわいいなー、純情だな―なんて思っていたら、近くにいたリボーンから「お前もな」と指摘される。慌てて手を頬に当てると、絶対に平熱よち上がっているな、って思うほど自分の手が冷たく感じた。
なんてこった、自分もどうやら純情みたいだ。………自分で言ってて恥ずかしいな。

ユカは雲雀さんの学ランが翻るのを見て、やっと正気に戻ったみたいだった。






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