雲珠桜は夏に彩る
危機の中の出会い08
「恭弥!」
「…………」
「って、ちょっと待てって、恭弥!」
「何」
「お前焦りすぎだ。もちっと先の事を考えてだな…………」
「五月蝿いよ」
「…………この二人は、いつの時代でも同じなんだなあ、草壁」
「ええ…………本当に」
ユカと別れての行動を取った雲雀達。部下を含むこの四人は、駆け足という表現が当てはまらないかのようなスピードを維持して、真六弔花が墜落したとされる並盛中へ向かっていた。その原因は言わずもがな、先頭を突っ切る雲雀のせいであった。
その身長に見合う最大限の歩幅と跳躍力を使って足を進めている。
「そんなに焦ると、大事な時にバテんぞ!」
「ハッ、そんな事ならないよ。あなたじゃあるまいし」
「なっ!?…………全く、減らず口は十年前から変わってねえんだもんなぁ」
ディーノは必死に雲雀を見失わぬよう、足を動かしながらぼやいた。気持ちがいつになく競っているせいか、口も悪い。雲雀が歩を弛めないことが更にディーノの焦りを誘い、頭をグシャグシャっと掻きむしった。
…………恭弥は、いつになく焦っている。それは多分、ディーノだけではなく草壁もロマーリオも気づいているはずだった。
恐らくその焦りはユカの事から来ているのだろう。彼がユカをどんなに大切に思っているかなんて、十年も雲雀の傍で家庭教師をしていた自分がよくわかっている。
「(…………そりゃ、焦りもするよな)」
今までのユカはいつも、まるで狙っているかのように雲雀本人が居ないときを狙われてきた。そのタイミングはとても最悪だ。
そして今回も、いくらユカの周りに大勢の人がいるからといっても安心できない。だからこそ、この焦りなのだろう。
そしてその焦りは…………最悪、油断を生む。それだけはどうしても避けたい。
「!…………並盛中だ」
「…………」
そんなことを考えているうちに、目の前の視界に見慣れたような景色。十年経っても一向に変わることのなかった並盛中だ。
雲雀は並盛中の校舎を認めるなり、先程よりももっと早いスピードで走り去っていった。
「あっ、ちょ…………恭弥!」
見失う。そう思ったら次の瞬間に雲雀は学校を囲う塀を乗り越えていってしまった。
「ぼばっ」
「…………は?」
「咬み殺すっ」
「…………おいおい、嘘だろ」
今の恭弥を見失う訳にはいかない。そう思い、急いで雲雀を真似て塀を飛び越えた。
それはいい。そこまではいいのだが、事もあろうに雲雀は止める間もなく、すぐに目に入ったのであろう真六弔花のデイジーとやらに襲いかかっていった。…………相手が呆気に取られている間を縫って、だ。
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