雲珠桜は夏に彩る 白い悪魔の誘引10 ユカはまた、頭を真っ白にさせられた。 何、何。何で…………こんなことに? 雲雀の様子はどうやら冗談でないことが読み取れる。本気で言っていると、雲雀の私を貫く視線が言っている。 「な…………」 「いい加減に目を覚ましなよ、ユカ」 「…………」 目を覚ます?一体何から? 雲雀の一挙一動に私の体が反応する。頬を染める。胸を高鳴らせる。そんな反応を必死に押さえながら私は頭を巡らせた。 …………それを繰り返していたお陰だろうか。さっきまでこんがらがっていた思考が落ち着き、頭が冷えていく。そして先程の言動 を思い出した。 …………ああ、私は何て事を。 一気にユカの顔が青ざめていった。自分の愚かさに、涙が出そうになった。 「あ…………わ、私…………ごめん、なさ」 皆が騙すような人じゃないってことは私が分かっているのに。 記憶を無くした私にあんなにも歩み寄ってくれたのに。 化け物が来たとき、自分の身を挺して守ってくれたのに。 皆があの怖い人達の…………白い人より、誰よりも心配してくれてたのに。 何より、私に屈託なく笑いかけてくれたのに。 皆を貶すような事ばかり私は口走っていたことに今気付いた。頭の中では自分の放った言葉と、私が言葉を放った時に傷付いた皆の表情がリピートされる。いくら衝撃の事実を知らされたとはいえ、なんと酷い、醜い女なのだろう、私は。 この時のユカにはもう、白蘭の元に行こうと言う意思はどこかへ飛んでいっていた。 「ごめんな、さい…………」 そう言えば、少し頭に重さを感じた。雲雀くんの手が、私の頭に乗っていたのだ。 「よかった…………」 その言葉に周りを見渡せば、誰もが息をついているのが見て感じ取れた。ツナも、山本も、獄寺も、京子ちゃん達も、ディーノさんも。皆が笑ってこちらの方をみて、笑ってくれていた。その事がどんなに嬉しかったことか。でも、疑問も自分の中で更に膨れ上がった。 「なんで…………私は異世界人とか、意味の分かんないものなのに」 何でそんなによくしてくれるの? ユカはそう問いた。 私と皆はそれほどの時を一緒にしてきたのだろうか?その事実をのみ込めるほどの時を。…………それはそれで複雑だ。きっとその時間分、両親に会えていないのだから。 ツナたちはその言葉を聞いて、意味が分からないという様なキョトンとした目をした。その目はなんでそんなことも分からないの?と訴えている気がする。 いやいや、私は全くと言っていいほど見当がつかない。すると皆は、口を揃えてこう言った。 「え?だって友達でしょ?」 その言葉に今度は私が呆然とさせられる。 友達?それだけでこんな私を受け入れるのか。 「…………」 でも、思考能力がこんがらがって使い物にならない私には、その言葉で十分だったらしい。息がうっと詰まったかと思うと、目尻から熱いものが数滴流れ落ちていった。それは一滴流れてしまえば、後を追うように次々と数を増やしていく。遂に目に溢れてしまうほどになると、今度は声まで押し殺さなくてはいけなくなってしまった。 …………胸の中のつっかえは、全部抜けていった。 「いやー、いいものを見せてもらったよ」 そんな雰囲気の中、パチパチと鳴り響く一人の拍手の音。その音は一つ放たれる度に、ビルの間を抜けていった。 [*前へ][次へ#] |