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雲珠桜は夏に彩る
恐怖と温もりと10







一滴溢れ出すと、段々それが一滴から二滴。二滴から四滴と、止まらなく溢れる。次々と流れ落ちていくそれを見た雲雀くんは、驚いたような顔をして、そしてばつが悪いと言うように頭から手を退けた。





「…………ごめん」


「あ…………いや、撫でられるのが嫌なんじゃ無くて!そうじゃなくて…………」





どっちかと言うと、枷が外れた様な。緊張の糸じゃないけど、そういう類いのものが切れて涙が溢れてきた、という方が近い。もしかしたら雲雀くんのお陰で、安心してしまったのかもしれない。
私はその場を誤魔化すため、自分の袖で涙をごしごしと拭いた。





「そうじゃなくて………そうだ、雲雀くん」


「?」


「その…………助けてくれて、ありがとう」


「!」





助かった、と苦し紛れに微笑むユカ。雲雀くんは、驚いたように目を見開かせた。さっきと違ってキョトン、とした感じだ。
そんな表情も彼はできるんだと、ユカは逆に驚かされた。そちらの方が年相応って感じがする。





「…………て、ない」


「え、なに?」


「…………僕はなにもしてない」


「そんなこと」


「泣かせた、から」


「え?」





雲雀くんはそういうと、私からすぐに顔を反らした。それだけじゃ物足りないのか、今度はご丁寧に体まで私に背を向けた。




「泣かせた…………って」




雲雀くんが泣かせた訳じゃない。




「それはだってあんなことになったら…………でも、雲雀くんがあそこで戦ってくれたから、こうしているんだし」


「…………でも」


「それに私、状況よく分かんないしどっちが敵か味方か分かんないけど、さっきの人は怖かったから。白い人はよく分かんないけど…………こっちの方が皆優しいし、連れていかないでって思ったんだ」





だからありがとう。助けてくれて。
何故か萎んでいるように見える雲雀くんの背中に、私は言葉を投げ掛けた。何かに押し潰されてしまいそうなその背中に。自分の身を呈して守ってくれているときは大きく見えたはずなのに、今は小さく見えるその背中に。
すると彼の背が、少し跳ねた気がした。





「雲雀くん?」


「そうだぜ、恭弥。ユカの言う通りだ」


「?」


「…………跳ね馬」





横で話を聞いていたディーノは、そんな雲雀くんに、にかっと笑いかけた。





「一人で気負いすぎなんじゃねーか?お前、ユカを泣かさねえって言うけどな。二度となんてこと、多分無理だ。なのにユカが泣く度自分のせいだって責める気か?」


「…………」


「今はユカがありがとうって、助かったって言ってるんだからそれを素直に受け取っとけよ。じゃねえといつか、今度はお前の方が押し潰されちまうぜ。な、ユカ!」


「え?あ、はい…………?」





実際そこまで深いこと考えてないし、ディーノの方が良いこと沢山言っているのだが…………何故かディーノは私に振ってくる。どう反応すればいいのか分からなかったので、取り敢えず笑った。




「…………」




雲雀くんは複雑そうな顔をすると私の方を見た。すると私の心臓が何故か小さく跳ねる。
…………視線が合い、私が軽く反らしてしまった。





『お前の男だ』


『お前の彼氏っつーやつだ』






途端にあの不思議な赤ん坊(?)…………リボーンとか言う子の言葉が甦る。フラッシュバックする。

…………ああ、今意識してどうすんだ、私。

するとまた、頭に重みがかかった。




「…………」





雲雀くんが私の頭をまた掻き回す。今度はちょっと控えめにくしゃっと。それが私には、『ありがとう』と言ってくれている気がした。もしかしたら気のせいかもしれない。でも、なんかそれが気恥ずかしくて、真っ赤になりかけた頬を隠すためにユカはうつ向いた。








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あきゅろす。
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