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夏と花火と君と。







パタパタパタ。私のスリッパの音が慌ただしく部屋に鳴り響く。

「ユカー?もう家事終わった?」
「はい、今行きます!」

そのまま駆け足でリビングに行けば、弥風さんがニコニコと良い笑顔で浴衣を持って待っていた。

「わお………本当に持って来てくれたんですか」
「当たり前よ!今日と言う日をどれだけ楽しみにしていたことか………さぁ、ヤるわよユカ!!」
「い、いやな予感しかしない…雲雀さんは?」
「恭?時間かかりそうだって言ったら先に行ったわ。待ち合わせは神社の前に六時だって」
「へ、先に行った?!一人で屋台回れって事ですか?!雲雀さんひどい!」
「ああ、屋台で風紀委員の腕章見せたらいいってよ、風紀委員会につけてくれるって」
「(屋台の人、絶対雲雀さんにお金要求出来ないでしょ………)」

八月某日。今日は夏には欠かせない町内夏祭りの日。珍しいことに今日この日。雲雀さんから夏祭りのお誘いが来たのでした。
その事が何処からか弥風さんに漏れたらしく、今日は朝からわざわざ浴衣を持参して来てくれた。

「私は大学の友達と約束があるからなぁ………なんなら来る?」
「イエ、結構デス。弥風さんのお友達のテンションとかついていける気がしない」
「アハハ、そう!さ、準備を始めましょ!」
「はい………浴衣とかまでわざわざ準備しなくてもいいのに………」
「私がやりたいの!それに恭をぎゃふんと言わせたいじゃない、女として!」
「雲雀さんは死んでもぎゃふんとか言わないと思う………」
「赤くなった顔ぐらいは見れるわよ!」
「どーですかね」
「大丈夫、ちゃんと必殺技まで用意したんだから!」
「おう………(ふ、不安だ)」

浴衣を片手にきゃぴーんとポーズを決める弥風さん。その姿は様になってはいるが、空いているもう片方の手に持っているのが浴衣の着付けカタログだったので、その存在で全て台無しにした。
浴衣を着るなんて一体いつぶりだろうか?今まで夏でもそう着る機会がなかったユカが着付けの仕方なんて知っているわけもなく、全ては弥風さん任せになってしまう。それがまた不安の一つだ。

「えーっと………ここを…」
「ちょっ………弥風さん!これ合わせが逆!それぐらい私も知ってる!」
「ああ、ごめん!人の着せるって自分でやるのとちょっと違うのよね………ここをこうしてっと」
「み、弥風さん…キツイです、これ………」
「あわわ」

大丈夫じゃなかった。素人二人であたふたしながらやっと着れたときには、私はもうクタクタな状態。せっかく着ることが出来た浴衣をもう脱ぎたくなった。

「さって、じゃあとっておきに移りますか!」
「え………弥風さん?!」
「大丈夫大丈夫!薄っすらと乗せるだけだから!これで恭もメロメロよ!」
「け、化粧なんて初めてなんですけど?!」



*****



「…はぁ、暑い」

ユカは一人、夏祭りに向かった。勿論浴衣のまま、しかもメイク付きで。待ち合わせは6時とのことだったので、私はちょっと早めに家を出て屋台をぶらぶらとしていた。一人で屋台を回るなんて寂しいものだったが、後で雲雀さんに付き合わせるためだと割り切って回っていた。

「メイクとか………なんか顔がのっぺりする気がする………」

弥風さんが張り切ってしてくれたメイクは、下地とチークと………そして分からない程度のアイメイクをしてくれた。こちらは比較的スムーズに、ノリノリで進んであっという間に出来たのは自分の顔なのに見慣れない顔。別に成形したわけでもないのに印象がこんなに変わるなんて、女は恐ろしいと密かに肩を震わせた。

「て言うか、早く時間ならないかな………」
「お、オネーサン一人?」
「あ、すいません。私待ち合わせあるんで」
「………!!ヒッ」

…そして何だろう。このメイクのせいなのか、夏の熱気のせいなのか。先程からチャラチャラとした輩がやけに声をかけて来る。メイクのせいで私も多少は見てくれ良く見えるようになったのかと思えば、先程のオニーサンは別の子に再び声をかけ始めている。成る程、数打てば当たる作戦か。その割に成功した試しはなさそうだか。
私はなんかもう面倒臭くなって、いつでも風紀委員会の腕章を取り出せるようにしている。大体これで引いてくれるのだから本当風紀委員会様様だ。下手したら並盛では未来の猫型ロボットの道具よりも便利かもしれない。

「さて。時間まで後少しみたいだし、ツナ達の屋台にでも寄ってから………」
「お、べっぴんさんはっけーん。一人なら遊ばない?奢るよー?」
「(イラ………)いや、待ち合わせあるんで。それに私これですし」

ああもうウザい。うざったい。大して顔も良くない奴がちょっとチャラチャラしてるからって、モテるとでも思っているのか。
私は若干イラつきながら再び話しかけて来た男に腕章を見せつけた。お願いだから話しかけないでくれと言うオーラも一緒に纏わせて。

「え?これ………風紀委員会の、」
「そうです。じゃ、これで………」
「おい、ちょっと待てよ。これで俺達が引っ込むとでも思ってんの?」
「え?」
「これニセモンだろ?人が悪いネェちゃんだなぁ………ほらほら、俺達と遊ぼうぜ?」
「え、ちが………っ」

成る程、こいつら馬鹿だったのか。
そう思い男の方に顔を上げると、目の前にはニヤニヤとした男の顔。気持ち悪くなって視線を少し反らせば、その男の後ろには更に何人かの男が待機していた。そこで初めて、自分の置かれている状況に危機を覚える。

「私………待ち合わせが、」
「イイじゃんイイじゃん。ほら、おにーさん騙したお詫びだと思ってさ。たっぷり遊ぼうぜ?」
「………っ!」

男が私の腕を掴む。嫌悪感が一気に湧き出て来たので振り払おうと力を入れたが、中々どうして身体だけは鍛えているらしい。私の力では到底及ばなそうだった。しかも慣れない下駄で、足は靴擦れを起こしていた。抵抗した時に激痛が走り、その痛みに怯んだ隙に男は私を自分の脇に導いた。
嫌だ、気持ち悪い。
脇に肩を押さえつけられれば抵抗なんてろくに出来ない。しかも靴擦れしているから走ることも出来ない。下駄を抜いで、裸足で走ろうか?何処に連れて行かれるかも分からない今、それが一番の策かもしれない。声を出せば早いのかもしれないが、私は男どもに囲まれているし、周りはお祭り騒ぎで大声を出しても届くか分からない。第一、隣の男がニヤニヤと監視している。

「ほらほら、こっち〜」
「っ………い、や!」
「暴れんなって。すぐそこだからよ。そこにゃあ俺達のダチもいるが………まぁいいだろ」
「!!」

これ以上人が増えたら、それこそ終わりだ。タイミング良く誰かが助けてくれるなら良いだろうが、現実そうも行くまい。
自分の顔から血の気が引いていくのが鏡を見なくても分かった………。

「ほらほら、ここなら誰も邪魔されないぜ?」
「っ………え?ここ…」

連れて来られたのは何と、雲雀さんと待ち合わせしていた神社の入り口だった。何かの間違いではと男を見れば、相変わらずニヤニヤと私の方を見ていた。そして耳をすませば喧騒の声。かすかに悲鳴らしき声も聞こえてくる。
………ああ、良かった。
ユカの頭には、一つの話が浮かんでいた。

「おう、やっと抵抗しなくなったな。………って、なんじゃこりゃあ?!」
「あはは………よ、良かった」
「………何やっているんだい?君達」
「あれ、ユカじゃね?どうしたんだ、こんなところで」
「取り敢えず………よかったとだけ言っておくよ………はは」
「話が全く見えないんだけれど」

単刀直入に言う。リボーン風に言えば、
『ボコっちゃった(事後)』
可愛い効果音が付きそうで付かないこの台詞。まだろくに修行も始めてないだろうに、よくもまぁここまで暴れたもんだと言っておこう。私のそばにいる数人の男以外、皆(勿論雲雀さん達以外)、地面と挨拶をかましていた。
きっと誰も遠慮なんてものはしていないのだろう。そして、この光景を見て被害者であるであろう私が気の毒に思ってしまうのは一体何故なのか。不思議でならない。

「て、てめぇら………っ!本当に中坊か?!」
「人間業じゃねぇっ………!」
「うるさいよ」

雲雀さんは小物には興味ないのか、鋭い視線をこちらに向けるとあっという間に詰め寄って、トンファーを振りかざした。急所を一撃、顎を狙っての攻撃だったので、私を掴んで離さなかった男はすぐに崩れ落ちる。他の男共も同様で、地面に全員が伏せるのにそう時間はかからなかった。

「す………ごすぎだろ……!」
「流石雲雀………って感じなのな」
「チッ………俺の出番取りやがって」
「そこもうるさい。群れるな」
「「「………ハイ」」」

ビシッと背筋も良く伸ばした雲雀さん。群れるなと指したトンファーの先には勿論ツナ達。いつも以上にただならぬ雰囲気に押されたのか、皆口を揃えて返事をしていた。

「は…はは、」
「君もだよ」
「アデッ!ちょ……何するんです、」
「は?」
「………イエ、ナンデモナイです」

腰を抜かして地面にへたりこめば、上からは手加減のない拳骨。雲雀さんの仕業だった。わざわざトンファーは持ち直して素手でやってるから、もしかしたら手加減になるのだろうけど、力加減はしていないに違いない。
ここの人達をあっさりと倒す人がそんな力で拳骨なんて、相当痛いんだぞ、雲雀さん。

「説明」
「え……と、簡潔に言えば一人で屋台ぶらぶらしてたら絡まれ拉致られそうになりました」
「違う。それは見れば分かる。………その顔だよ」
「へ?………ああ、化粧のこと?弥風さんが必殺技だって言って……」
「な、なんかユカちゃん大人っぽい………」
「け、ケッ……ガキが背伸びしやがって」
「獄寺。言っとくけど私、あんたより年上だからね」
「似合ってると思うぜ!ユカ!」
「あ、ありがとう山本」

私の化粧姿に対しての反応は人それぞれ。素直に褒めてくれたりいつもと違う顔に戸惑ってたり。………一番反応が気になる人は今の所無反応だ。
何だかそれが悔しくて、変なら変で何か反応してくれないだろうかと私は、さっきから黙り込んでいる雲雀さんの顔を横から覗き混んだ。

「雲雀さん?せめて何かしら反応ないと………」
「知らない」
「おうっ………何でデコピン?!」
「そのスッカスカな頭で考えてみれば?」

私を振り切った雲雀さんは、手だけを取るとどんどん神社を離れて行く。手を握られているものだから、私だってツナ達とどんどん離れていった。………ツナ達は何を悟ったのか、生暖かい目で見送ってくれた。

「ひ、雲雀さん………浴衣だから足が追いつかない………あと靴擦れが」
「………」
「………(あ、耳がちょっとだけ赤い?)」

そのまま連れ去られるようにその場を後にした私達は、風紀委員の人が見つけておいてくれた、人がいない花火の穴場まで連れて来られて、その夏の花火大会は大満足で幕を閉じた。人がいないと言うよりは、そこだけ違和感のある空間となっていたため、誰かが人払いをしてくれたんだろう………。
後で雲雀さんと回ろうと思っていた屋台の食べ物も風紀委員の人が何故かピッタリのものを買っておいてくれていた。その間雲雀さんはずっと手を繋いでいてくれて、恥ずかしかったけど、なんか嬉しかった。

帰る時も手を繋いだままにしておいたせいで、帰った時玄関に待ち構えていた弥風さんがニヤニヤとした笑いを止めなかったのも良い思い出だ、うん………。



(ハッハー、どうよ恭!私のメイクの腕は!んー?ぎゃふんと言っちゃった?まだなら今言ってもいいのよ?)
(…)
((今度は怒りで顔が赤くなってる…!!))








*****

ここではお久しぶり、でしょうか。
地元で今日(8/1)大きな花火大会があるので関連付けてアップしてみました!ギリギリ間に合ってない…!←

一応フゥー様からのリクエスト、と言う形にさせていただいていますが、いやまぁ…「弥風さんがユカに浴衣を着せる」と言う素晴らしいアイディア…!ありがとうございました!!弥風さんを再び書かせていただけるなんて!と言う風に感動してました。弥風さんは起承転結、オールマイティーなお方です。
どうか皆さんで、最後の雲雀さんと一緒に弥風さんを蹴ってやって下さい←
(弥風さんと草壁の短編書きたいけど、需要はあるのだろうか…いや、ない(笑))

久しぶりの短編なので違和感のある文となっているかもしれませんが、後で修正したいと思います~_~;
ていうかこの更新に皆さん気づいてくれるだろうかと密かに不安に思ってますが…←
ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました!






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