雲珠桜は春に出逢う 予想外。 「何の用だろ?」 昼に近い午前。名を聞けば大抵の人間は怖れ震え上がる『ヴァリアー』の屋敷の薄暗い廊下では、ザンザスからの呼び出しを食らって一人の少女が軽い足取りで足を進めていた。 自分の事情……トリップしてきたことや漫画のことなど(無理矢理)話すことになって、ザンザス達に怪訝な顔をさせたのは昨日の話。 それを聞くともっとひどい扱いになるのか……と思いきや、それどころか今に至るまで(何故か)命の危険を悟ることも不自由な日を過ごすこともなく今日を迎えた。 実に不思議だ。 「あ……」 ふと立ち止まる。 ここ、どこ? 「やっちゃった……」 私は辺りを見回す。 辺りには真っ赤なカーペット(の所々にその赤よりちょっとどす黒い滲み。何かはあまり考えたくない……)、それとちょっと廊下を薄暗く照らしている照明器具たち。後は普通の廊下では絶対に見られないような凝ったドアたち。つまり…… 私の与えられていた部屋の近隣とは何一つ変わらないわけで。 もっというなら……案内もなしで初めて来た人は迷ってもしょうがない……みたいな? 「そりゃあ同じ景色が続いたら方向音痴じゃなくても迷うよ……」 はあ……と溜め息。 さて、どうするか……? 私は取り敢えず来た道を戻ることにした。戻れば知ってるところに出るか知り合いに会うかと思って……。 「Ё.?rei……」 「ん?……」 低い男の声が聞こえた。 咄嗟に後ろを振り替える。 「おお……?」 「Ё cosi.Un capo……la donna (ああ、なんだ。ボスが言っておられた女か)」 そこにはヴァリアーの隊服を身に纏った長身の男がいた。 身長差がかなりあり、見上げるかたちになって首が痛い……。 「ええっと…………ぼ、ボンジョールノ……?」 「Ciao. Cosa fa in tale luogo?Ё l'aspetto, inoltre……(チャオ。こんなところでなにやってんだ?しかもその格好……)」 「ええ……?」 ……この人何て言ってんの!? ここには日本語をしゃべれるやつは居ないのか。 物凄い勢いでイタリア語らしき言語をしゃべる男は私にどんどん話しかけてくる。残念だが私は英語すらろくに習得できていない高校生。イタリア語なんていくつかの単語を知っているだけでわかるはずも無かった。 「そのー……アイ、キャンノットスピーク、イタリアン。おーけぃ?」 素晴らしい発音ができない私は日本語と英語の間のような発音で『英語』で話してみる。 いくらあたしだって『イタリア語が話せません』ぐらい英語でいえるぞ。 [次へ#] |