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しろの小説(長編倉庫)
秋に咲く桜

観覧車から降りてすぐ、次のゴンドラの扉が開いてさきほどの女性達が降りてくるまでの間に2人は早足でその場から離れた。

「…テメーがあんなとこで発情しやがるから」

「その気にさせるのは俺次第とか言って煽ってきたくせによく言うぜ」

「ちょっ、脚色するのやめてくんない?そんなつもりで言ったんじゃねぇよ」

「全く、素直じゃねぇな。ま、今日のところはそういうことにしといてやるよ」

「…死んでくんないかなコイツ。300円あげるから」


ぶらぶらと歩きながら他愛ない話をしているうちにもう日は傾き始めていた。

「もうすぐ日が暮れそうだな。後は帰るだけか?」

「ここからだとちょっと遠いんだが…帰る前にテメーに見せてぇモンがある」

銀時がまだ見えぬ星を掴むように空へと手を伸ばしながら話し掛けると土方はちょうど近くに停まっていたタクシーに声をかけ銀時に乗るように促した。



タクシーを降りる頃には太陽もすっかり沈みきっていた。土方は運転手にここで待っているよう念を押すと、銀時に『ここからは俺が連れてくから俺がいいと合図するまで目を瞑ってろ』と言ったのだが、銀時が素直に『はい、そうですか』というわけもなく『転けたらどーすんだ』やら『えー、めんどくせー』とか一通り文句を言った後、ようやく『しょうがねーな。ここまで来といて引き返すのもアレだし』と土方の頼みを聞くことにした銀時は目を閉じた。



目を瞑って土方の肩と手を掴んだ状態で歩くこともう10分は経っただろうか。目に頼らず歩くことのなんと不安定なことか。少しの時間でもやたら長い時間相当な距離を歩いているような錯覚に陥る。
そしてやっとのことで目的地に着き、土方の『着いたぜ』という言葉とともに銀時が目を開けると目の前に広がるのは一面の花畑だった。雲に隠れていた月が顔を出し、月明かりがさぁぁと二人と花畑を照らしだす。

「白い…秋桜?」

辺り一面真っ白な秋桜畑を目の当たりにして『こんな場所があったんだな』と驚きながら周りを見回す銀時を見て土方は『連れてきた甲斐があったな』と思いながら銀時にしゃべりかけた。

「俺もつい最近この場所を偶然見つけてな、…テメーに見せてやりてぇとずっと思ってたんだ」

「…もしかして沖田くんが言ってた『いい香り』って…」

「多分これだろうな」

銀時があの時沖田が言っていた疑問を改めてもう一度訊ねると土方は秋桜を指差した。

「見せたいとは思っていたんだが、なかなか言い出すタイミングが掴めなくてな。もし言って茶化されたらまた口喧嘩になっちまってたかもしれねぇしよ」


月が秋桜と2人を照らす中、月の光を反射する白が儚さを帯びながら輝く。秋桜畑の中で花を愛でる銀時の姿がとても幻想的に見え、土方は思わず後ろから銀時をそっと抱き締めた。

「銀時…」

「オイ、また…」

「何もしねぇから…」

振り返り土方を睨もうとする銀時に土方は優しい声で呟く。

「何もしねぇって…抱き締めてる時点で何もしてないとは言えねーんじゃねーの?」

銀時は呆れたように口振りで土方に言い返す。

「…嫌か?」

「嫌だったらとっくに張り倒してらぁ」

「そうか」

銀時の言葉に土方の声が更に優しく響き、耳をくすぐる。
土方が一旦腕を解き銀時が振り返ると、お互い目の前に立つ愛しい人を再び抱き締め、そして唇を重ね合わせた。



そんな2人の姿を月と秋桜だけが静かに見ていた。


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