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しろの小説(長編倉庫)
密室

ちょっと…何?この気まずい雰囲気。俺が何かしましたかっ!?
自分は確かに『観覧車に乗りたい』とは言った。だが、こんな沈黙した状態で乗りたいと願ったわけじゃない。いや、だからと言ってぺちゃくちゃしゃべりたいってわけでもねぇけど。…とにかく今はあーだこーだ考えるよりも何か行動を起こしてこの空気を打破することが優先だよな。

銀時がそう思い立って何かしゃべろうとした瞬間、先に静寂を打ち破ったのは土方の方だった。

「…なんで待ち合わせの時、遅れてきた?チャイナが言ってることが本当ならテメーも早めに着いてたんじゃねぇのか?」

「あ〜…」

そうきたか。俺がはぐらかしたりしないように面と向かって話させる為に2人っきりになる空間へ連れてきたってことですかコノヤロー。
外の景色を眺めるフリをして土方と目を合わせないようにしながらなんとか他の話題に持っていけないかなどとしばらく考えていた銀時だったが、目からビームを出すんじゃないかと思うほど真っすぐこちらを見つめる土方に銀時は腹を括る。

「…っ、あぁもうっ!そうだよ!!30分前にはとっくに着いてたよっ!だけどテメーがもう既に待ってて驚きのあまり出ていき損ねたというか…」

30分前でも早すぎるか?なんて思っていたのにそれよりも遥かに早くから待っていたらしい土方の姿を見つけてしまい、嬉しいような恥ずかしいような、気まずいような気持ちが交錯して出ていけなかったと銀時から聞き、土方も今まさに同じ気持ちになるのと同時に、やはり自分が到着する時間は早すぎたのかもしれないと反省した。どうにも落ち着かなくて早めに待ち合わせ場所に向かったら予定よりかなり早い時間に着いてしまったのだ。

「…いや、別に普通に出てくりゃいいじゃねーか」

「出ていけるわけねーだろ…約束の時間より早く行ったらいかにも『楽しみにしてましたー♪』って言ってるようなもんだろーが。…別に俺は楽しみにしてたわけじゃないけど。たまたま早く着いただけだし」

「……だったら時間どおりに来たらいいじゃねぇか。せめて10分遅れとかよ」

「ヅ…いや、知り合いにあって面倒ご…じゃなくて話し込んでたらつい」

そろそろ出ていくべきだろうか。そう思った矢先に桂にばったり会ってしまい、土方と鉢合わせさせないようにして尚且つ撒くのに結構手間取ってしまったなどとは言えるわけもなかった。

「だからってどんだけ待たせるつもりだったんだ…。約束の時間からかなり待ったぞ俺は」

もしかしてすっぽかされたたかもしれねぇ、なんて思ったんだぞと土方はうなだれる。

「だから悪かったって。最初に謝ったじゃん」

「…せめて、もっと分かりやすい言い訳言わねーとお前が早く来てたなんて気づかねぇだろうが。早く来てるって知ってりゃ俺だってあんなに怒らなかったのによ」

「言えるわけねーだろ。んなこと。それでテメーが嬉しそうな顔したら俺がムカつく」

土方は、『はぁ』と溜め息を吐くとともに脱力しきった感じでそう言うと銀時は再び土方から顔を背けるように外の景色へと視界を移しながら答えた。

「…じゃあ、逆に聞くけどよ、今日のお前、かなり変だったぜ?俺の前でタバコやマヨの摂取控えたり、さっきの風船や沖田くんの時も…なんか様子がおかしかったように見えたけど?」

「タバコとマヨはいつもテメーが『ケムい』だの『気分悪ぃ食欲が失せるわ』だの言いやがるから今日ぐれぇは控えようとしただけだ」

「じゃあ、あとの2つは?」

「…時々テメーのことが分からなくなるって言うかよ…あ〜、何考えてるか分からねぇのはいつものことか。…俺のことどう思ってるのかとか、俺以外の奴といる方が幸せなのかもしれねぇとか、自分でも『らしくねぇ』って思うようなことばかり考えちまってな」

神楽から今日の銀時の様子を聞いた時点である程度吹っ切れていたものの、土方が今まで銀時に抱いていた不安を本人にぶちまけると、銀時はほんの少しの間、黙って土方を見つめると、まるで先生のような口調で土方に再び問い掛けた。

「…土方く〜ん、質問です。テメーは何とも思ってないようなヤローとあんなことやこんなことするんですかぁ〜?」

「は?んなわきゃねぇだろ。俺は好きな奴にしかそういうことはしねぇ」

好きじゃない相手…ましてや男同士で誰がそんなことしようなどと思うか。好きになった相手が同性だった。ただそれだけ。

「俺も同じだよ。…それに、俺の幸せが何かなんてそんなモン俺が決めることであって、周りの人間が決めつけて押しつけるモンじゃねぇだろ?」

お互いに真っすぐ視線を交わしながら銀時はそう言うとゴンドラから見える空に視線を移す。

「確かに俺ァ風船みてーにふわふわしてるしてるかもしれねぇ。実際、何かに縛り付けられたり型にはまって生きてくなんてまっぴらだって思ってるぐれーだからな。…だけどよ、手を離したらどっかに飛んでっちまうようなモンでもねーよ。」

それはさっき神楽の乱入ですっかり言いそびれてしまった言葉だった。

「それでも。俺は手を離したくねぇ。テメーを俺だけのモンにしてェ」

「おーおー、いつもの土方くんらしくなってきたんじゃねーの?まぁ、もっとも、俺をどーこーしてェってのは土方くんの頑張り次第じゃね?」

目を逸らす事無く真っすぐ向ける視線と『独占したい』と言い切る土方に対して銀時はわざと煽るような言い方をする。

「上等だ」

そんな会話を交わす2人の様子はいつもの彼ららしいものだった。



「おー、街があんな小っさく見えらぁ」

頂上付近まで上り詰めた観覧車から見える景色は江戸全体を見渡すにはちょうどいい眺めで、銀時が普段あまり見ない角度からの江戸の景色を楽しんでいると土方がふと何かを思い出す。

「そういや…」

「?」

「銀時…総悟にキスされたのはここだったな?」

土方は横に並ぶように座ると銀時のあごをくいっと持ち上げ顔を近付けると耳元で囁くように銀時の名を呼び、頬に口付けをした。

「おいおい、なんですかぁ?いきなり思い出したかのように…んっ…んんっ…」

ふいに唇を重ねられ銀時は言葉を奪われる。抱き寄せられ自由が利かない上に、キスと耳元で囁かれる低い声に抵抗する力を削がれつつもなんとか体を捩らせその唇からなんとか逃れると、力が入らない手でなんとか引き剥がそうとしながら反論する。

「ふ…っはぁ、はぁ…口はされてねーぞ。…!?ちょっ!?…あっ」

土方が銀時の首筋に唇を落とすと同時に普段からはだけ気味な胸元から服の中に手を滑らせた。それに気付いた銀時は慌てて制止をかける。

「待て待て待てっ!!ここ外だから!!こんなトコ誰かに見られ…」

「見られねぇだろ。ここは観覧車の中なんだからよ。」

確かに今は観覧車の中で、頂上を越えて今から徐々に下っていくかというあたりだが…だけど…

「…ゃ…、だから待てって。…も……近くからものすご〜く、視線を感じるんだけど…」

最初は自分の行動を制止させようと必死になってるだけだと思っていた土方だったが銀時の様子が少しおかしいと気付き辺りを見回すと、すぐ隣のゴンドラに乗っている女性達が見下ろすような角度から自分達を好奇な目で見ているではないか。すっかりスイッチが入っていた土方もさすがにそれを見て続ける気にはなれず、最初とは違った気まずい雰囲気に『早く降りてこの場から一刻も早く離れたい』と思う2人の気持ちは一致していた。


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あきゅろす。
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