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しろの小説(長編倉庫)
何が観たい?

会話が途切れてからも土方の足は止まることなく、いったいどこへ向かっているのだろうかなどと銀時が考えながら歩いていると

「とりあえずここに入るか」

土方はふと足を止めて建物の方へと向き直った。そこは以前、どこぞのマヨラーと偶然居合わせた腹立たしさを吹き飛ばす為、銀時が気分転換にと入った映画館だった。…もっとも、その時はこの場所でもばったり会ってしまい、気分転換どころか余計苛立つ羽目になってしまったのだが。

「なんか観たいモンあるか?」

「んぁ?別に…」

何が観たい?と問い掛けられ銀時は特に興味なさげな態度で答える。実際、コレと言って気になっていたものが思い付かなかったのだからしょうがない。『となりのペドロ』だって何となくでチョイスしたワケで、別にソレをどうしても見たくて選んだというわけでもなかったのだから。
すると『じゃあテキトーに見繕うぞ』と言った様子で上映一覧を見ながら土方は口を開いた。

「仮面●イダーとかあるぞ」

「何ソレ?わざと?羞恥プレイですかコノヤロー。羞恥心ですかァ?」

銀時はそのチョイスに思わず反論をする。
ここ最近だって たま達に説教してる最中、誰の陰謀か恥ずかしいメに遭わせられたんだ。冗談じゃねぇ。

「だったらワ●ピースにするか?んん?三刀流で戦ったらいいんじゃないですかぁ?ロ●ノアさんよぉ」

「誰がロロ●アだっ!!だったらテメーはキ●ットじゃねぇかっ!!」

土方は誰が出演してるとか考えず、たまたま選んだけだったのだが、銀時の剣幕に『まずったか』と思うも後の祭り。
…だが、いくらコイツの逆鱗に触れたからってその反論はねーだろ。こっちは深く考えずただ目に止まったヤツを口にしただけでからかおうなんて気はこれっぽっちもなかったというのに。
こうなるともう売り言葉に買い言葉な状態で土方は思わず気が立っている今の銀時に一番言ってはならない地雷とも言える一言を口に出してしまった。

「…テメー、言っちゃあいけねぇこと言っちまったな。」

俯いてふるふると震える姿を見て土方がハッとした瞬間、制止をかけるよりも早く拳が飛んでくる。

「ちょっ、待て!大体そんなに怒るようなことじゃねーだろ!!愛嬌があって可愛いじゃねーかっ!」

「なっ!?」

攻撃を辛うじて受けとめるもそのまま乱闘へともつれ込むかという時、胸ぐらを掴まれた土方がとっさに言った言葉に銀時は思わず動きを止め、掴み掛かった手を離す。

「何わけ分かんないこと言ってんの?バッカじゃね?」

とっさに後ろを向いて銀時は動揺を見透かされないようにして悪態をついた。
いやいや、コイツが可愛いって言ったのはキバッ●であって、俺じゃねぇっつーの。いや、ある意味俺だけど。

「じゃあ、やっぱりテメーが決めろ。何選んでも俺は文句言わねぇ。それでいいだろ」

「へ?あ…あぁ」

自分の一言で相手がそんなに動揺していることに土方は全く気付きもせず、一つ溜め息を吐くと『どれを観るかテメーが決めろ』と促し、一方銀時はこっちの動揺に全く気付いた素振りも見せない土方を見て、『もしかして俺ってそんなにポーカーフェイス上手いのか?それともコイツが鈍すぎるのか?絶対コイツ女心とか分からないタイプだよ。』などと考えた後、上映一覧に視線を移した。
仮面ラ●ダーとワン●ースは却下だし、プ●キュアはトッシー出てきたらうざいし俺自身別に観たくねぇ。あとは…

「あ〜…コレとか?」

「じゃ、行くか」

銀時が一覧の中の一つを指差すと土方はちらりとそれを確認すると、銀時と一緒に映画館の中へと消えていった。



「…オメー、普通あのシーンで泣くか?」

「うるせぇ、テメーにはペドロの悲しみが分からねぇのか!?」

上映終了後。映画館を後にしてもまだ下を向き自らの目を押さえるように片手で顔を覆う土方を見て、銀時は少し呆れたような表情で土方の方を見る。

「いや、だってオメーがぐすぐすぐすぐすいいだしたの始まって30分も経ってなかっただろーが。俺にゃテメーの泣きどころは理解できねーよ」

「第一弾でも思ったが奥が深いぜペドロ。ガキ向けの作品だからって侮れねぇ。しかも今回の『崖の上のペドロ』は前回よりさらに深みが増していて最高だったぜ」

なんか語り入っちゃったんですけどこの人。
銀時は『ハイハイ、よかったね〜』と適当にあしらいながら出口付近にも貼ってある映画の宣伝ポスターをちらりと見た。
あのラインナップの中、候補はペドロの他に恋愛ものの作品もあったのだが、自分からコレを提案するのは柄でもないというかなんというか。大体男同士でラブストーリー見るのってなんかどうよ?とか思うし。それに……あ〜、やめやめ。ろくなこと考えやしねぇ。

「ところでよ…」

ちょうど銀時が考えるのをやめ、自分の横に立って泣いているこの男に視線を向けると、何かを思い出したかのように土方はじろりと銀時を睨んだ。

「今回も、もっさもっさもっさもっさぽりぽりぽりぽりうるせーんだよテメーはっ!!」

「え〜、だって前回は多串くんのせいでポップコーン無駄にしちまったしよ〜。細かいこと気にすんなって」

「誰が多串だっ!それに好きなもの買えとは言ったが限度があるだろうが!!大体あの時ポップコーンを投げ付けて無駄にしたのはテメー自身じゃねぇかっ!」

今回は土方の奢りと言うこともあって、銀時はキャラメル味のポップコーンやらポッキーやら好き放題買い込んで上映中ずっと土方の横で食べていたのだ。その音がどうにも我慢ならなかったらしい。

「まぁまぁ、いいじゃないの。それでも誰かさんは映画に感動して泣くぐらい感情移入してたみたいだし?」

銀時は土方の肩をポンポンと叩きにっこりと笑いながら言う。プライドが高い土方が、いくら映画に感動したからといっても銀時に自分の涙を見せてしまったのは不覚以外の何物でも無く、そんな土方の性格を見越して言った銀時の一言は効果覿面だった。

「それに確かテメー、この間ポップコーン食ってたじゃねぇか。上にマヨたっぷりかけてよ、コーンマヨ気取りですか?アレ。人には『侍のくせに んな うわついたモン食ってんじゃねぇ』的な事言っといてそれはねーだろ。いや、ポップコーンにマヨな時点でありえないけどねコレ。」

返す言葉を失い、ギリ、と奥歯を噛み締めていたところに追い打ちをかけられ、反論する意欲さえ削がれた土方は舌打ちをする。

「…ったく。あんまり菓子ばかり食ってっと飯食えなくなんぞ」

「あ〜、平気平気。もしそうなったら俺、デザートでいいし」

「糖とキ●タマが化学反応起こして爆発しても知らねーぞ」

「ちょっ、おまっ、ソレどこで聞いた!?」

「さて、どこでだろうな」

悔しまぎれで言った適当な言葉に予想外に動揺する銀時を見て少し気を良くした土方はクク、と不敵な笑みを浮かべ、濁すように言葉を返した。


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あきゅろす。
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