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しろの小説(長編倉庫)
待ち合わせ

暑さもすっかり和らぎ頬を掠める空気が心地よくなったある晴れた日の事。一人の男が苛立ちを隠せないといった面持ちで立っていた。

「…っ、遅いっ。あのヤロー一体いつまで待たせやがんだっ!!」

その不満をぶつけるべき相手がまだ来ていないにも関わらず、男の口から文句がこぼれる。
真選組『鬼の副長』の二つ名に引けをとらないほどの形相をしたまま、土方十四郎はもう何本目とも分からないタバコに火を点けた。足元には数えきれない程の吸い殻が…といいたいところだが、タバコのポイ捨てなんてしようものならば今が真選組副長としてではなくプライベートだからといっても、ただでさえ『チンピラ警察』などと不名誉な呼ばれ方をされている真選組の評判を更に悪くすることにもなりかねない。そんな考慮もあって土方は携帯灰皿を持ち歩くようにしているので吸い殻はすべて灰皿へと消えていくわけだが、その灰皿もまだ来ぬ待ち人のせいで容量の限界を超えて今にもはち切れそうになっていたりする。

「…まさかいくらあいつでも忘れてるとかは無ぇよな…?」

怒りを通り越して不安がよぎったその時、

「悪ぃ、遅れたわ」

言葉とは裏腹に悪怯れた様子も無く、白髪のようにも見える銀髪と死んだ魚のような目をした男、坂田銀時がへらへらとしながら土方へ歩み寄った。

「『悪ぃ、遅れたわ』じゃねぇよ!!いったい何があったらこんなに大幅に遅刻出来んだテメーは」

やっと来た相手に思わずまくしたてる土方に

「んー?あぁ、寝過ごした。…それにそんなに大遅刻ってほど遅れてねぇだろーが。ひょっとして約束のだいぶ前から待ってたクチだったりして?」

銀時はまるで怯む様子もなく、むしろ人をおちょくるような態度で逆に土方に問い掛ける。

「そんなわけねーだろ!調子に乗んじゃねーよ」

と土方は否定したが、実際のところ土方は約束よりかなり早い時間から待ち合わせ場所にいた。しかしそれをわざわざ肯定したくはなかった。すればさらにからかわれるに決まってる。それにこの男に会うのが待ち遠しかったと言うようなものではないか。

「じゃあ、いいじゃん。苛々はよくないよ〜?いちご牛乳飲んでカルシウムとった方がいいんじゃね?」

「なんでいちご牛乳限定なんだよオイ。ちっ、もういい。行くぞ」

前々から思っていたが食えねぇ野郎だ、なんてことを改めて思いながらも、いちいちコイツが言うこと全てにツッこんでいたら一向に話が進まないと見切りをつけ土方は歩きだした。



「ところでよぉ」

「あ?」

土方の少し後ろを歩きながら銀時はふと思い出したかのように疑問を口にした。

「俺、オメーに誕生日教えたっけ?」

「池田屋の一件で調書をとった時に俺も立ち合わせてただろーが」

首を傾げる銀時に土方はなんだそんなことかといった様子で答える。
銀時が攘夷浪士の桂小太郎と何らかの繋がりがあるのではないかと思い、重要参考人として事情聴取をとる際に土方もその場に立ち合っていたのだ。結局は有耶無耶なまま釈放することになったのだが。

「そうだったっけ?…いや、でもフツー覚えてねーだろ。それで今日わざわざ俺の為に休み取ってくれたとか?」

「うるせぇ。自分の誕生日の倍だから覚えやすかっただけだ。休みもたまたま重なったからだ自惚れてんじゃねぇよ。…それより俺はなんでテメーが俺の誕生日知ってたのかが疑問だがな」

いくら誕生日が覚えやすいからといってどうでもいい相手の人間の誕生日を覚えているほど土方も殊勝ではない。出会ったあの日から気に掛かっていたこの男のことを少しでも知りたくて色々調べていたなんてこと、本人に言えるはずもなく。
それをごまかす為に逆に土方の方から銀時へ問い返すが正直、コレは土方が銀時に誕生日を祝ってもらった時からの疑問でもあった。あの時は自分の誕生日に銀時がタイミングよく呼び出すものだから浮かれて深くは考えなかったが、よくよく冷静になって考えてみると自分の誕生日を教える機会なんてあっただろうか。
そう思うと同時にあの時それを疑問に思わなかった自分はなんて単純だったんだと感じずにはいられなかった。

「ゴリラが言ってた」

「近藤さんが?」

しれっと答える銀時に思わず聞き返す。
近藤勲は土方の上司であり真選組の頭である男なのだが、銀時達からはゴリラだのストーカーだの好き放題言われていて、最初の頃は『その呼び方をやめろ』としきりに注意していたが、今ではもう半ば諦めている。

「あぁ。あん時は確か、テメーの誕生日パーティーするとかなんとか言っててよ。そういえばあの時、横で沖田くんがゴリラに何か吹き込んでたけどな」

確かに自分の誕生日の前日に近藤に『明日は予定空けとけよ』なんて言われていたが銀時との約束を優先させたい思いもあって『気持ちだけ受け取っとく』と断ったのだった。さらに思い返せばあの時、近藤と一緒に沖田も残念そうな顔をしていたがきっとよからぬことを企んでいたに違いない。銀時の言葉で確信しながら土方は『そうか』とだけ言い、着物の袖に手を突っ込み腕を組むと進行方向へと向き直った。


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あきゅろす。
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